大型津波実験装置と研究成果

津波の波形は一様にはとらえられない。津波の惨事を防ぐためには、より正確な実証実験が必要だ。津波を精密に再現できる実験装置として、同センターは大型水槽に津波を起こす装置を8ユニット設置した。装置には複数のバルブが付き、開放するバルブの数やタイミングを制御する。観測値やシミュレーション(模擬実験)技術を組み合わせて多様な波形の津波を再現する。防波堤や海岸堤防、または建物等の陸上構造物に作用する津波波力や津波による遡上・浸水の状況を屋内水理実験で再現するための津波造波装置である。

東日本大震災時のような大規模津波の再現が可能であり、津波の挙動や影響を高い精度で把握することができる。津波造波装置を用いた実験技術と大成建設保有の津波シミュレーション技術とを併用することにより、海岸堤防などの防災施設の設計、臨海部のエネルギー施設を対象としたBCP(事業継続計画)の提案や、港湾や橋梁など構造物に与える影響を実験することにより建物等の陸上構造物の安全性評価等に活用している。

津波シェルターの開発

東日本大震災での津波の甚大な被災を教訓に、津波避難施設(津波避難ビル)の重要性が再認識されている。津波避難ビルとは津波による被害が想定される地域の中でも、地震発生から津波到達までの時間的猶予や地形的条件等の理由により、津波からの避難が特に困難と想定される地域に対し、やむを得ず適用される緊急的・一時的な避難施設である。

津波に対する安全性を確認する方法として「構造的要件の基本的な考え方」が定められており、浸水深に応じて「津波荷重」の想定により受圧面(外壁、窓等)・構造骨組(柱、梁、耐力壁等)を設計することが求められている。その結果「地震」と「津波」に強い津波避難ビルを実現することが可能となる。

津波避難施設として適切な構造は、 RC(鉄筋コンクリート)造やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であるが、国交省国土技術政策研究所(茨城県つくば市)が実施した地震・津波による被災調査報告では、従来津波に強いと考えられていたRC建物において倒壊や傾斜などの被害が報告された。津波に誘起される洗掘による建物の傾斜被災も報告された。

東日本大震災の大津波において漂流物対策が重要課題となった。津波避難施設の立地計画では、対象地域の居住人口・就労人口と津波避難施設の収容人数および所要避難時間によって、設置数や設置箇所が決まる。漂流物の発生しない場所に限定した立地を考えることは難しく、漂流物が多く発生する可能性がある地点であっても立地場所となる場合がある。津波避難施設を考える上で漂流物対策も設計上の課題である。

大成建設は、津波避難施設として円筒形構造(津波シェルター)を提案し、その立地計画や構造設計における検討課題として1.立地計画と漂流物挙動2.漂流物対策工と津波波力の関係3.漂流物と津波対策工の干渉による津波避難施設の洗掘リスク、に着目し研究開発を続けている。

液状化対策~建物の沈下を期間で予測~

同技術センターは、地震時に液状化する地盤の変形を簡易に予測するための3次元静的解析手法を開発し発表した。この解析手法の適用により、建物の沈下を高精度で短期間に予測することが可能となる。東日本大震災が発生した際には、液状化による地盤の沈下が各地で発生し、住宅や工場などの建物が被災した。安全で効果的な液状化対策を検討するためには、地盤の変形を正確に予測することが重要だ。

液状化する地盤の変形を予測する解析手法には、動的解析手法と静的解析手法がある。動的解析手法は時間により変化する地盤と構造物の挙動を2次元または3次元で詳細に把握できるが、地盤の条件設定が複雑で、高度な解析技術が求められ、計算時間も膨大となる。一方、静的解析手法は主に2次元解析を用い、地盤の条件設定は簡易で、計算時間も短時間で済むため、実務に広く適用されている。しかし、建物が近接して設置されているプラント工場や住宅などの3次元的な地盤の変形予測を行う際には、2次元の近似的なモデルにより解析するため、解析精度に限界があるなどの課題があった。

そこで、大成建設技術センターはこれらの課題を解決するため、2次元静的解析プログラム「ALID」の液状化による地盤変形解析機能を、汎用3次元解析プログラム「FLAC3D」に組み込み、液状化する地盤の変形を簡易に予測できるように機能拡張した3次元静的解析手法を開発した。その特長は1.液状化対策の信頼性の向上2.計画・基本設計段階から適用が可能3.検討期間を大幅に短縮ーである。

今後は、液状化に伴う地盤変形の簡便な予測ツールとして、同センターは臨海部のプラント工場等での液状化対策の検討などに適用していく予定である。大規模な地盤変状や地下水の影響を適切に評価することによって、予測精度のさらなる向上を図っていくという。