「強靭」「しなやかさ」からは連想しづらい

立命館大学 経営学部 客員教授


ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会 委員 


小林誠氏

国土強靱化推進のために設置されたナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会は、回を重ねるごとに、課題や解決策など、今後日本が執るべき対応策を提案している。その中で、リスク対策の専門家である小林誠氏(立命館大学)は、ハード面に偏りがちな対策に警鐘を鳴らし、ソフト面の充実、とりわけ防災に対する教育の重要性を力説している一人だ。懇談会の委員でもある小林氏に考えを聞いた。

国土強靱化とレジリエンス 
同義語のように用いられる「国土強靱化」「レジリエンス」とだが、日本で議論している「国土強靭化」と欧米の「レジリエンス」には若干の違いがあると小林氏は指摘する。しかも、アメリカとイギリスでさえ、考え方に大きな違いがあるという。

アメリカは本来、2001年のテロ対抗策として、防護を主体としていたが、2005年にハリケーン・カトリーナを経験した後、強さ一辺倒に対する反省から、防護を補完する言葉として「レジリエンシー」が前面に押し出されてきた。しかし、いまだに同格ではなく防護優先の考えが強い。 

一方イギリスでは、レジリエンスを、防護より広義にとらえており、「重要インフラ防護」と言っていたものを「重要インフラレジリエンス」に変えている。 

では、日本の国土強靭化はどちらのタイプなのだろうか。強靭化の「靭」の字には「しなやかさ」の意味合いがある。アメリカのような「強ければいい」とは異なる考え方ではあるが、「強靭」という言葉はその意味合いをうまく出していないと、小林氏は言う。 

「どうしても強い方に引っ張られてしまって、『強靭』から『しなやかさ』を連想する人は少ないと思います。メンタル面、たとえば心理学では、『レジリエンス』という言葉をそのまま使っているほどですから」(小林氏)と語るように、わざわざ日本語で表現して範囲を狭めなくても、カタカナ表記をそのまま使えばいいのではないかという考えだ。

レイヤーとフェイズに基づいた対応 
日本版のレジリエンスを考えるとき、階層(レイヤー)と時系列(フェイズ)という視点が必要になると小林氏は語る。

レイヤーで考えれば、国・自治体・地域・企業/団体・個人、それぞれの階層のすべての人たちが対処しなければならない課題を考え、対応できるようにしなくてはならない。国だけ、自治体だけがやればいいということではなく、それぞれのレイヤーの人が、どのような事態にどう対応するのか対応策を策定しておかなければならないという考えだ。この場合、レイヤーごとに、事前の予防から、防護、緊急時の対応まで、具体的な対策が示されることになる。