レジリエンス・センターの設立
日本人に、レジリエンスの概念を広く教育していくためには学校教育と並行して、特別なプロジェクト体制が必要になると小林氏は提唱する。それが「レジリエンス・センター」の設置だ。

「それを推進するためにはレジリエンス・センターのような仕組みを作り、実際のプロジェクトをシミュレーションしながら流布していく構想が必要になります。このような仕組みがなく、単に指導要綱や条例などで実施させようとしても、国全体として教育を推し進めていくことは難しいでしょう」とその重要性を訴える。 

たとえば、国民に防災教育をするとしても、講師の派遣や教材の手配なども含め、一元的に対応できる組織がないと、国全体の取り組みとして機能することはないという考えだ。レジリエンスに関連した教育について問い合わせたいときには、このセンターに連絡するだけですべて解決できるコミュニケーションセンターとしての機能を持たせ、継続的な取り組みを支援する。 

センター設置にあたって小林氏は、「教育のあり方、教育の方法というのは、当然今の防災教育を元にしないと甚大な無駄が出てしまいます。それをベースに、国民教育として欠けているアイテムをプラスしていくというやり方なら、当面はスムーズな運用ができると思います」とし、現在の学校教育や地域コミュニティとの連携も視野に入れていくべきだとする。 

地域性を加味することも推奨する。レジリエンス教育は、必ずしも全国一律の必要はないというのが小林氏の考え方。例えば、海に面していない地域では津波より土砂災害に重点を置くというようなカリキュラムの多様性が求められる。 

こうした教育環境を実現することはきわめて壮大な事業になる。「国だけに頼り切るのではなく、自治体や民間までもが分担し合って、全体の力で国土強靭化計画を推進していくというのが本来あるべき姿だと思っています」と小林氏は、その未来像に期待を込める。  

建物などの建造物は、地震などで壊れる可能性があるが、小林氏は、「壊れない心づくり」の大切さを説くとともに「レジリエンスな社会の実現には、人を作るということが一番重要」と訴える。

東京主義と京都主義
以前、東京大学・藤森照信名誉教授は、災害に対する考え方として、「東京主義」「京都主義」とをあげた。

●東京主義 
東京の大火に対して明治政府は東京防火令を施行し、建築物の耐火・防火構造化ということで、防火路線に指定された道路に面した家はレンガ造り、石造り、土蔵造りのいずれかで建築するハード対策を行っている。 

結果として土蔵造りの家が広まり、東京の景色は一変したという。 

法律の期限内に実施できなかった建築物については5年間の猶予が認められたものの、その際には建て替え費用の積み立てが強制されたが、積立金に高利を付けたことで、防火対策が急速に促進されている。

●京都主義 
京都も大火によって多くの屋敷や町家を焼失したが、大火が次世代都市へと脱皮する好機とみて、幕府と朝廷、富を蓄えた町衆によって、思い切った都市計画が実行されている。戦乱の間、誰からも守られることがなかった京の町民は、自ら団結して外敵から町を防衛しており、その町組(町の集合体)を形成・自治運営することで火災対策を考え、建て替えをしていたという。 

ハードだけではなくソフト対策との両面から防衛体制をつくり上げた「自治独立」とも言うべきものが京都主義で、街を根底から支えるエネルギーとなっている。