エスカレーションと情報収集のルール化
第17回 緊急時の情報の共有方法
株式会社フォーサイツコンサルティング/
執行役員
五十嵐 雅祥
五十嵐 雅祥
(一財)レジリエンス協会幹事。1968年生まれ。外資系投資銀行、保険会社勤務を経て投資ファンド運営会社に参画。国内中堅中小製造業に特化した投資ファンドでのファンドマネジャーとしてM&A業務を手掛ける。2009年より現職。「企業価値を高めるためのリスクマネジメント」のアプローチでコンプライアンス、BCP、内部統制、安全労働衛生、事故防止等のコンサルティングに従事。企業研修をはじめ全国中小企業団体中央会、商工会議所、中小企業大学校等での講師歴多数。
五十嵐 雅祥 の記事をもっとみる >
X閉じる
この機能はリスク対策.PRO限定です。
- クリップ記事やフォロー連載は、マイページでチェック!
- あなただけのマイページが作れます。
□事例
新型コロナウイルスに関して、東京都が発表しているデータの修正が相次いでいます。
5月11日に、これまでの感染者数の累計が76人増えると発表しました。保健所からの報告漏れや重複計上がその原因とされました。
また5月12日までに公表されていた入院者数も、実態と異なる数であったことが判明しました。例えば、緊急事態宣言延長前の5月6日は「2974人」が「入院中(ホテルなどでの療養者含む)」と発表していましたが、実際の入院者は「1511人」で、ホテルなどでの療養者が「486人」であったと修正しました。これは、退院者の把握に時間がかかったことが主な原因とされています。
しかし修正前の入院者数(2974人)の公表によって、5月12日には一部マスコミで「東京都の医療機関への負荷は現状でもぎりぎりの状況にある」と認識されました。また政府の専門家会議でも、宣言延長決定直前の5月4日に「依然として、入院患者を引き受ける医療機関への負荷は現状でもぎりぎりの状況にある」との見解が示されてしまいました。
さらに東京都は5月21日に、感染者数の累計がこれまでより47人増えると修正しました。こちらの原因も「保健所からの報告が遅れたり、重複して計上したりするミスが相次いで見つかった」からでした。
東京都では大規模な修正が繰り返されたことについて、「先月から患者の数が急増して、都と保健所の業務が増大し、日常の確認作業が追いつかなかった。患者の数は正確な情報をお伝えすべきで、再び修正という事態になり深く反省している」と話しています。
□解説
今回の緊急事態には、想定外が多々あったことと思います。
保健所では、患者数の急増に伴い、住民からの受診相談や濃厚接触者へのPCR検査、検体の搬送などの業務が増大し、報告データの未入力や発生届の未作成などが生じたのでしょう。情報を集約する都においても、都内の患者数や急増した局面では毎日200件以上の報告が各保健所から上がってきました。同時に、感染者が搬送された病院から保健所への報告は義務付けられたものの、退院・転院の場合には保健所への報告は義務ではなかったこともあり、都の担当者が1件ずつ病院に退・転院の確認を行うなどの対応が加わったことで処理能力の限界を超えてしまったといわれています。
また、各保健所から都への報告はファクスが使用されており、都が情報集約のために準備していたファクスの専用回線は1回線のみであったことも混乱の原因になったようです。
これを受け、都は感染者の情報を管理するデータシステムを新設し、都と保健所で共有できるようにしました。
緊急事態が発生した場合の対応について、平時から起き得ることをほぼ完璧に想定し、準備している企業はそう多くはないと思います。緊急事態に行うべきことには、一定程度のトライアルアンドエラーによってアップグレードしていかなければならないこともあり得るでしょう。
ただし、今回の東京都での緊急事態における情報共有について、企業として学べる点に以下の2つがあると思われます。
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方