荒川区の木造住宅密集地域。東京都が進める不燃化による減災はまさに事前復興だ(提供:高崎氏)

「事前復興」と「脆弱性克服策」

山中氏は「事前復興」を提唱する。一般にはなじみの薄い言葉だが、災害研究の世界では一応市民権を得ているという。「事前復興」の用語法には3通りある。

1.「災害が発生した際のことを想定し、被害の最小化につながる都市計画やまちづくりを推進すること。減災や防災まちづくりの一環として行われる取り組みの一つである」と定義する。平時から被災したと思って防災に力を入れる。それを「事前に復興する」という言葉で表現したわけだ。ここで「復興」はハード系、土木工学的な意味で使われている。

2.「発災後、限られた時間内に復興に関する意思決定や組織の立ち上げを急ぐ必要がある。そこで、復興対象の手順の明確化、復興に関する基礎データの収集・確認などを事前に進めておくこと」こそ「事前復興」だという考え方である。「まさか」の時に備えて、企業が危機管理マニュアルを用意したり、保険に入ったりするのと似ている。つまり、ここでの「復興」はソフト系、知恵や教訓の伝承・集積の具現化を意味しているといえるだろう。

3. 山中氏が独自に主張している考えで、「個人、家庭、さらには地域の抱える脆弱性を見つけ、克服するための努力を積み重ねていくこと」と定義している。「例外状況は状態をあぶりだす」という。「例外状況」つまり災害はその社会の「常態」、病巣や脆弱性を顕在化させる。事前復興事業の策定作業は、その「常態」を見つけ、脆弱性を克服し、よりよき街づくりについて話し合うところに意味がある。「総合計画」や「都市計画」へのフィードバックも考えられる。BCPの作成にも寄与するだろう。

山中氏は結論づける。「<事前復興計画>は『精神力』ではなく『構想力』でなければならない。目標を関係者に共有できるメッセージが発信されなければならないのだ」。氏の鋭い指摘を国や地方自治体がどれだけ汲み入れることが出来るのだろうか。不安なしとは言えない。

(つづく)