2017/05/08
安心、それが最大の敵だ
「事前復興」と「脆弱性克服策」
山中氏は「事前復興」を提唱する。一般にはなじみの薄い言葉だが、災害研究の世界では一応市民権を得ているという。「事前復興」の用語法には3通りある。
2.「発災後、限られた時間内に復興に関する意思決定や組織の立ち上げを急ぐ必要がある。そこで、復興対象の手順の明確化、復興に関する基礎データの収集・確認などを事前に進めておくこと」こそ「事前復興」だという考え方である。「まさか」の時に備えて、企業が危機管理マニュアルを用意したり、保険に入ったりするのと似ている。つまり、ここでの「復興」はソフト系、知恵や教訓の伝承・集積の具現化を意味しているといえるだろう。
3. 山中氏が独自に主張している考えで、「個人、家庭、さらには地域の抱える脆弱性を見つけ、克服するための努力を積み重ねていくこと」と定義している。「例外状況は状態をあぶりだす」という。「例外状況」つまり災害はその社会の「常態」、病巣や脆弱性を顕在化させる。事前復興事業の策定作業は、その「常態」を見つけ、脆弱性を克服し、よりよき街づくりについて話し合うところに意味がある。「総合計画」や「都市計画」へのフィードバックも考えられる。BCPの作成にも寄与するだろう。
山中氏は結論づける。「<事前復興計画>は『精神力』ではなく『構想力』でなければならない。目標を関係者に共有できるメッセージが発信されなければならないのだ」。氏の鋭い指摘を国や地方自治体がどれだけ汲み入れることが出来るのだろうか。不安なしとは言えない。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方