首都直下地震では国会や行政機関より民間の被害が危惧される

首都機能の分散を急げ

防災研究者らの調査によると、日本列島の国土は地球の陸地のわずか0.25%だが、世界で起きる地震のうち約20%が日本で発生し、活火山は7%が集中している。台風や大雪にもしばしば見舞われており、内閣府のまとめでは、2001年までの30年間の被害額は世界の16%を占めた。

災害は地域や時代で異なるのは当然である。関東大震災(1923年)では火災で多くの犠牲者が出た。大震災がなかった戦後の高度経済成長期に海岸や池が埋められ、山も削られた。災害に弱い場所にビルや住宅、道路、工場が立ち並び、社会が抱えるリスクは大きく拡大した。阪神淡路大震災(1995年)では、倒れた住宅や家具による犠牲者が相次いだ。

活断層、津波が襲来する海岸、軟弱な地盤、崩れやすい斜面、火山噴火、堤防のない河川…。災害をなくすことは出来ない。「減災」に向け、まずは身の周りのリスクについて知り、迫りくる危機に備える必要がある。地方自治体が災害対策を急ぐ背景には、2万人近い犠牲者を出した東日本大震災を機に、日本が抱える災害リスクから目を背けることが出来なくなったことがある。

東日本大震災後に刊行された「漂流被災者」(著:山中茂樹氏)を読んで考えされられたことが多かった。山中氏は指摘する。「東日本大震災やその後の大震災の復興に取り組んでいるうちに、首都圏直下地震や東海・東南海・南海地震が起きないとも限らない。これまでは大地震が起きても首都直下や太平洋ベルト地帯に大きな被害をもたらす海溝型地震について<連動するものではない>としてきた地震学者も今日は強く否定はしない。東日本大震災で気づかされたのは、首都東京の脆弱性と東北各自治体の事前準備の不足である」。

首都東京の脆弱性については、つとに指摘されてきた。首都直下地震が起きれば、その復興は容易ではないことは、国の予測でも明らかになっている。たとえば首都直下地震で想定されるがれきの量は、なんと9600万t。東京中の空き地という空き地を埋め尽くすことになる。

しかも必要な仮設住宅は27万棟。すべて建設するのに1年1カ月を要する。震災から1カ月後の疎開者数は140万人。鳥取県2県分より多い人口が県外被災者となる。帰宅困難者は約650万人と推定され、ラッシュアワー並みの混雑となる。自宅から距離が10km以上あると、距離が加わるごとに1割が脱落(帰宅不能)していき、20kmでは全員脱落すると予想されている。

山中氏は指摘する。「危機管理の要諦は、リスクを分散することだ。それには首都機能の分散しかないだろう。それも、これまでのように国会や政府機能の移転ではない。首都直下地震では地盤のしっかりしている政府中枢(中央官庁)の被害は軽微で、BCP(事業継続計画)が発動され、3日もあれば政府機構は正常化する。

一方、地盤の弱い下町や世田谷方面の住宅街などが大きな被害を受けるとみられる。であるならば、工場や旅行客の多い文化施設などを地方に移す。それも従業員ごと移転を図るのだ。そのための税制優遇措置や敷地・住まいの提供を地方が準備すればよい。掛け声ばかりでできなかった多極分散化と国土の均衡ある発展を今こそ実現させる時ではないか」。けだし至言である。