災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
【第5章】 災害救護 1(後編)
市民レベルによる正しい簡易トリアージの重要性と盲点
株式会社日本防災デザイン /
CTO、元在日米陸軍消防本部統合消防次長
熊丸 由布治
熊丸 由布治
1980年在日米陸軍消防署に入隊、2006年日本人初の在日米陸軍消防本部統合消防次長に就任する。3・11では米軍が展開した「トモダチ作戦」で後方支援業務を担当。現在は、日本防災デザインCTOとして、企業の危機管理コンサルや、新しい形の研修訓練の企画・実施を行う一方、「消防団の教育訓練等に関する検討会」委員、原子力賠償支援機構復興分科会専門委員、「大規模イベント開催時の危機管理等における消防機関のあり方に関する研究会」検討会委員、福島県救急・災害対応医療機器ビジネスモデル検討会委員、原子力総合防災訓練外部評価員、国際医療福祉大学大学院非常勤講師、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構プログラム運営開発委員長等の役職を歴任。著作:「311以後の日本の危機管理を問う」、オクラホマ州立大学国際消防訓練協会出版部発行「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」監訳、「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック」等。
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※前編はこちらから 第5章 災害救護 1(前編)
【ショックについて】
ショックとは血液の循環が悪く、体中の細胞へ十分な酸素と栄養が行き渡らない状態を指し、この状態が長引くと死に至ることがある。しかし、このショック症状は見逃しやすいので注意深く要救助者を観察する必要がある。
■ショックの主なサイン
•浅く、早い呼吸
•毛細血管再充満時間2秒以上
•単純な指示に従えない
浅く、早い呼吸とは一体どの位の回数を表しているのだろう。通常成人の1分間の呼吸数は毎分12~20回程であるので、毎分30回以上の呼吸数をショックの兆候と判断する。しかし、プロの医者でさえ要救助者の呼吸数を冷静・正確に数えるのは至難の技である。ましてや、それが暗闇の中の災害現場ではなおさらのことだ。繰り返しになるが、普段の訓練がいかに大事なのかご理解いただけるだろう。
次に確認したいのが循環のチェックである。2通りの方法を紹介しよう。まずは毛細血管再充満時間を測る方法だ。これはブランチテストと呼ばれ、手のひらや爪を指先で強く押して、さっと離した時に通常の皮膚(爪)の色に2秒以内で戻るかどうかを見るやり方である。これも暗闇で行うのは困難であるが、LEDライトなどを用いて行えば不可能ではない。
もう1つの循環のチェックのやり方に、橈骨動脈拍(とうこつどうみゃくはく)即確認法という手法がある。これは暗闇の中でライトがない場合や極寒の環境下においてブランチテストができない状況の際に用いる二義的な手法である。やり方は橈骨動脈拍を触知できる正しい部位に指を置き、2秒以上測っても脈が感じられなければショックの兆候と判断するやり方である。
ショックの確認で最後に行うのが要救助者へのメンタルチェックである。これは要救助者の意識レベルを図る方法で、「大丈夫ですか?」などの呼びかけに対して反応するのか、または要救助者に対し単純な指示を出し、その指示に従えるかどうかを見るやり方である。例えば要救助者の手を握りながら「私の手を握り返してください」というような指示を出し、それに対し、要救助者が的確に反応するかどうかを見るやり方である。呼びかけて反応がなかったり、単純な指示に従えなければショックの兆候と判断する。
■ショックへの対処
繰り返しになるが、ショックの兆候は極めて見逃しやすいので、CFR、CERTメンバーとして災害救護活動に携わる者は前述の方法を用いてショックの兆候をいち早く見つけられる知識と技術を身につけていただきたい。さて、ショック症状が確認された要救助者に対しては次の3ステップで対処しよう。
Step1:気道確保
Step2:止血(出血がある場合)
Step3:体温保持
ステップ1と2は前述したとおりだが、ステップ3の体温保持は毛布や保温シートなどを用いて要救助者の上下に使おう。地面からの冷たい温度や熱い温度は要救助者の体温コントロールに影響しやすいので、しっかりと下に敷き、上からも外気からの影響を直接受けないよう上下から保護してあげたい。また、足を若干高い位置に持っていき、心臓に血液が戻りやすい状態を作ってあげよう。
※意識のレベルダウンがあったときに嘔吐し窒息などの危険があるため、ショックの兆候がある要救助者には食料は与えないこと。
さあ、それでは呼吸の確認、循環の確認、意識レベルの確認の練習をしてみよう。
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