人間を軽く移動させる古武術技

さて、最後は、人を軽く移動させる古武術技です。足の上にタンスが乗っているなどの場合、クラッシュ症候群にならないように、すばやい救出が求められます。その人を先述のように起こしたとします。足の上のタンスはジャッキで持ち上げたので、空間ができました。うしろに引きずりだせれば助かる、そんな時どうやってひっぱろうとしますか?

多くの方は、両手で相手の両脇下を持ってひっぱろうとします。そこが、一番広いからひっぱりやすそうに見えるのですね!

でも、だっこの仕方や起こす技、荷物の持ち方でもずっと重心が大事と言っていた事を覚えていますか?

脇をひっぱっても、相手の重心はおへそにあります。重心が下がるので重たいのです。重心の中心であるおへそ周辺に力を加える方が人は軽く動かせます。

足をのばしてすわっている人の背後から、相手の両手を相手のおへそにあわせます。相手の意識があれば、自らおへそをおさえてもらえばいいですが、意識がなければ、救助者が行います。両手を組ませるのではなく上下にあわせ、おへその上におくだけでいいです。相手の脇の下から自分の手を入れ、相手のあわせた両手の手首を握ります。意識がない人の手首を握ると、おへその上であわせた手がばらけてしまいます。そんな時は手首と一緒に相手の指先もつかむとよいです。

重心の中心であるおへそ周辺に力を加えると、人を軽く動かすことができる(イラスト:松井 大)


救助する人は、背後から腕をのばしたまま、中腰になってみてください。相手のおへそに最も力が集中するように意識して、そのおへその力が自分のおへその部分ひきつけられるように、2、3歩うしろに下がってみてください。

そうすると、ほとんど力をいれていなくても、人が簡単に起き上がってきます。相手の体重が重い場合は、起き上がってはきませんが、後ろ方向に動かすことが可能です。両脇下をひっぱろうとしても、びくともしなかった人でも、重心に力を入れることで動かすことが可能になります。

この場合、失敗するケースの多くが、おへそより上の部分に相手の手が動いてしまってそのままひっぱろうとしてしまうケースです。重心がずれると、とたんに重くなります。

一般的な救助法では、相手の手を腕組みのように組み、背後にまわり、脇下から自分の手を入れて、組んだ相手の手をひっぱる方法が説明されています。こちらも、脇下をひっぱるだけより断然軽く動かせますが、実験の結果、重心であるおへそを動かそうとする古武術の方が軽いと体感される方が多いです。

腕を組ませる方法は脇下をひっぱるよりも重心に近いところを動かせるので軽くなりますが、重心そのものであるおへそ部分に力を加える方が、力のない人にとって、負担が少ないからです。

力のある人であれば、どちらの方法でも変化を感じないかもしれませんが、女性やこどもに体験していただくのであれば、重心利用のほうがおすすめです。そして、女性やこどもにとって簡単な方法は誰にとっても楽な方法でもあります♪

禁忌となるケースはおへそを中心とした内臓に損傷が想定される場合です。

この技も普段使いしてみてください。「酔っ払って玄関で寝ているパートナーを移動させることができた!」という声をいただいています。

いつも使っていて、体幹や重心の使い方が日常になっていたら、普段も楽だし、災害時や子育て期、介護期も楽になれますね!

そして最も重要なことがあります。この技は自分が知っていても自分は助けてもらえない技なのです!地域の人、家族、まわりの人に広めないと自分も家族も助からないのです。ふだんから、地域の人とお友達になるスキル=共助につながる重要スキルとして、ぜひマスターしてほしいと思っています!

(了)