本社が関与しない問題点とは

日本国内の保険手配を専門部署に分けて担当させていることは、一応機能しているのでまだ看過できるかもしれません。しかし、海外子会社の保険手配は現地任せで本社がリスク管理に全く関与していない状況であれば、それは大きな問題につながりかねません。

例えば、為替の規制が厳しいA国に工場を有する場合、その工場で何かが起これば、その工場の事業復興のためにA国の通貨をかき集めなければいけません。かといって、為替規制が厳しい国ではインフレ率が高いことが多く、その国にキャッシュをため込んでおくと、その価値が下がってしまいます。従って、事業復興をA国の事業に任せっぱなしにするのではなく、グループ全体で資金を集中させることも含めた、財務的なプランと能力が必要であり、グループ全体のリスクマネジメントが必要となるのです。
 
あるいは、サプライチェーンの中で重要な部品、特に外注がきかない部品をB国の工場で生産していた場合、その工場で何かが起これば、その工場の事業復興はグループ全体の命運を握ることになります。しかも、B国の事業復興を待っていられない可能性もあります。

そのような場合のために、いざとなったときには他の国の工場のラインの一部をその部品の製造に振り向けられるようにしておくなど、グループ全体で事業のリスクをコントロールしておく必要があるのです。そして、このようなグループ会社のガバナンスの強化は、近年の会社法改正や運用見直しの中でより強く求められているところでもあります。

管理が難しい不祥事対策

加えて、海外子会社の管理で難しい問題の一つが、不祥事対策。海外子会社の不祥事で実際に多いのが、現地役員や従業員による着服です。

例えばコマツでは、2015年、同社米州調達センター所長を務めていた元幹部が出張旅費の架空請求により、累計4億円弱着服していたことが判明し、逮捕された事件がありました。

マスコミ沙汰になるような大それた事件は、自分の会社に無縁、と思う経営者が多いことと思いますが、海外子会社での着服事件は、規模の小さいものも含めれば、意外と多く発生しています。

これは、例えば現地の日本人CEOを交代させて引き締めを図っても、簡単に根絶できません。なぜなら、CEOや役員が代わった場合でも、現地の財務担当や営業統括担当の中間管理職は変わらず長く務めることが多いからです。これは、現地の事情をよく知り、同時に会社のことも知っている人材の確保が難しいということに加え、その上司が彼なら適切に管理するであろうと期待してしまうからです。

ところが実際は、現地に派遣された日本人CEOは、現地の業務や商慣習をよく知る中間管理職に厳しく当たることが難しく、他方、それをいいことに、現地の中間管理職が自ら着服したり、現地の取引先と結託して水増しした請求書を出させて着服したりする事例が、意外と多く見かけられるのです。

もちろん、着服による損失だけを埋め合わせればいいのではなく、保険さえかければ十分というわけではありません。海外子会社の管理が甘ければ、ビジネスがうまくいくはずがなく、これは経営問題そのものです。