当事者防災研究会~要配慮者が自ら助かるための知恵と工夫~
避難時における車いすでの階段の上り下りについて
要配慮者自らが、助かる知恵と技を身につけよう
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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当事者防災とは、災害時における要配慮者である、各種障がいをもつ方とその周囲の方々のための防災対策です。本連載では、世界にあるたくさんの当事者防災のヒントをご紹介し、読者の皆さんとともに当事者防災について考えてみたいと思います。
さて、病院での防災ワークショップ時に、「避難訓練で手動式車イス利用者を階段から降ろす時、前向きが良いのでしょうか?後ろ向きが良いのでしょうか?」という内容の質問を多数いただきます。
まず避難階の被災状況などを見て、「本当に車いす利用者を階段を使って避難した方がいいのか」「降ろすとすれば何階まで降ろして安全に避難するべきか」などを考えていただきたいと思います。そのうえで、「同じ階で安全に避難できる場所はないのか」「階段を下ろしているときに余震が起こった場合にどうするのか」なども考えながら、平面図などを使って慎重に議論していきます。
すべての災害はケースバイケースなので絶対にこの方法が一番というとらえ方ではなく、いろいろと実際に試して、その人に合う方法をいくつか身につけておくことが重要だと思います。そうすることで訓練を行うたびに想定内が増え、想定外が減っていきます。
下記の2つのビデオをご覧下さい。
■Descending steps with a wheelchair with assistance
(介助者とともに車椅子で階段を下りるための手順)
VIDEO
出典:Descending steps with a wheelchair with assistance
■One Person Assist Going Up and Down Stairs
(1人の介護者で、(車いすで)階段を上り下りするには)
VIDEO
出典:Craig Hospital Wheelchair Skills: One Person Assist Going Up and Down Stairs
上記のどちらも車いす利用者がいる病院の職員や関係者、家族に向けて作成されたビデオのようですが、短い階段の降ろし方をとてもわかりやすく解説しています。もちろん障がいの種類にもよると思いますが、基本的なコンセプトは十分に伝わってくると思います。
以下が、上のビデオで紹介されている車いす利用者を階段で下ろすときのコンセプトです。
・準備1:降車介助者は最低2名以上が望ましい。
・準備2:車いすの外れやすいパーツを利用者に確認する。一般的には、後部ハンドグリップと車椅子本体のパイプを持つことが多いが、車いすの種類によって様々なので、階段を下ろす前にしっかりと確認すること。
・準備3:車いす利用者によっては、シートベルトを付けた方が安全な場合がある。
・準備4:ブレーキやタイヤのロックを外し、階段を降りられる状態にする。
・準備5:車いす利用者と呼吸を合わせる。
・降車介助手順1:
トップサポーター(階段の上側の介助者)ハンドブレーキを調整しながら、利き足を車いすの下の段に置きながら、腰に力の入る状態で、バランスの取れる体制を維持しながら降車介助する。
・降車介助手順2:
サイドサポーター(階段の横下側の介助者)の1名は、転倒とバランスを保持するため、介助者と利用者と声を出しながら息を合わせて、半身の状態で一段ずつサポートする。利用者が重たい場合や階段が長い場合は、手すり側に背を向けた状態で、手すりに腰を当てて両手でバランスを崩さないように体を保持しながら降車介助を行う。
上記方法はあくまでも一例で、他にもたくさんの方法があると思います。大切なことは一例を活かして、十例を考え、実際に試してみることだと思います。
なお、超高層ビルは大きく揺れるため、すぐに階段を降ろさずに介助者は身の安全を公示ながらもタイミングを見計らい、壁の手すりなどに車いすの強いフレーム部分をベルトなどにより強く固定することも一案だと思います。施設の事情によっても異なると思いますので、実際に車いす利用者が乗車状態で試してみて下さい。
下記はオハイオ州立大学のマニュアルです。
■Taking a Wheelchair Up and Down Stairs and Curbs
(車いすの、階段の上り下りと縁石に乗り上げる方法)
https://patienteducation.osumc.edu/Documents/wheel-chair.pdf
介助者のサポート付きで、利用者が乗った状態で車いすを階段で降ろす場合は、前向きで前輪を上げる形、つまりウイリーを下にした状態で前後に介助者がつき、後輪を一段ずつ、降ろしているようです。
理由は、後ろ向きに下ろすと重心が落ちる方に掛かりすぎるため、車いす利用者は、「介助者が足を滑らせて落ちたときに後頭部を強打するのではないか」と大きな不安を感じるため、前向きで前輪を上げた形が重心が整うため安心感があるようです。下記の資料に重心のバランスの絵図があります。
■手動車いすの重心の位置について操作法マニュアル
http://www.assistive-technology.ca/docs/mwcskillsg.pdf
次のビデオのような補助段があると階段の段差(蹴上げ幅)が小さくなりますので、さらに快適に上り下りできると思います。
VIDEO
出典:Walk et Roll Stairs. Low cost "stairlift" for climbing wheelchair, trolleys,...
いずれにしても最初にも述べたように、車いす利用者を階段を使って下ろす場合は利用者と車いすを別々に搬送するか、または「本当に階段を下ろす必要があるのか?」などをよく判断して行動に移された方が良いと思います。階段を下ろしているときに余震が来た場合には介助者ごと階段を転落する可能性もあるため、同じ階で一番安全な場所に避難した方がいい場合もあります。
実際に車いす利用者の方々と一緒に考えて、ご検討されてみて下さい。車いす利用者の方々も、階段を降りるときにはこんなバランスになるということを知っておかれた方がいいと思います。
また、ビル火災の避難時に大勢の人たちが一度に避難する場合には、階段幅の使い分けや避難階段の使い分けなども決めておいた方がいいかもしれません。たとえば、内側の手すりは消防隊が上ってくるときのために空けておくのも避難モラルの一つです。
火災の場合、火災が発生している火点階の1階下まで逃げれば、助かる可能性は高くなります。必ず、1階まで逃げると言うことは考えなくてもいいと思いますので話し合ってみて下さい。
下記のような電動車いすは高価だとは思いますが機動力は大きいと思います。
VIDEO
出典:The stair-climbing wheelchair TopChair-S
世界にはたくさんの当事者防災のヒントが紹介されています。みなさんも探してみて下さい。
それでは、また。
■当事者防災研究会FBページ
https://www.facebook.com/toujisha/
(了)
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