当事者防災研究会~要配慮者が自ら助かるための知恵と工夫~
障がい者福祉施設の防災計画について
緊急時のコミュニケーション手法
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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先日、障がい者福祉施設で生活支援をしている方から、大規模な地震などの災害発生時には、まず当事者に対してどのように災害発生状況を伝え、必要なコミュニケーションやお知らせをしたら良いのか?また、何に気をつけて対応すればいいのか?というご質問をいただきました。
もちろん障がいの種類や程度に応じて、それぞれの対応方法が変わり、スタンダードな解答は限られると思います。参考事例として、オハイオ州立大学が各種障がい者の一般的な避難計画や災害時の対応についてまとめたビデオを見つけましたので、ご紹介いたします。
Disability Training for Emergency Planners: Serving People with Disabilities(出典:Youtube)
このビデオを作った経緯は、①アメリカ国民の5人に1人は何らかの障がいを持っていること、②過去の障がい者が犠牲となってしまった災害事例を読み解くと、具体的な避難計画や救助計画など施設や設備も含めて整備されていなかったこと、③周囲に住む人々や働く人たちの災害対応計画に障がい者の避難サポートやバリアフリーの動線チェックなどが含まれていなかったため、結果的に中途半端に取り残された火災事例もあったこと、そして何よりも一番大きなきっかけは、④2012年には67人の高齢者と障害者が住むアパートで火災が発生したことでした。
消防士や関係者にとって、逃げ遅れた障がい者33名を3階から救出し、階段を何度も往復して搬送した経験がいかに大変で、恐ろしい体験だったかをデブリーフィングし、オハイオ州立大学が依頼を受けてこのビデオを制作したそうです。
False alarms created dangerous situation at fire (出典:Youtube)
この火災の一番の教訓は、火災報知器のアラームが過去に何度も誤作動していたため、入居者のほとんどが本当の火災警報とは判断できず、避難しなかったことでした。
本来であれば慎重に、また入念に準備しておくべきである障がい者や高齢者の避難計画もなく、また警備員や施設で働く人たちの自衛消防計画もなかったそうです。
火災原因調査の結果、ほぼ確実に予防できた火災だったことがわかりましたが、障がい者と高齢者にどのように火災警報を知らせ、周囲や関係者に伝達し、判断させ、自ら避難、または初期消火してもらうのがよいのでしょうか?
さらに、この施設は教会が地域貢献のために献金で運営している社会福祉施設でした。地域自治体のどの部署が67名のさまざまな障害を持つ入居者と、補助具を使った移動が必要な高齢者達に対し、責任を持って避難訓練や初期消火訓練を行うかなどが大きな検討事項となっています。
約1時間の内容のビデオであるため、一度にすべてを書き出すことは困難ですが、この内容を翻訳するだけでもかなりまとまった災害時における各種障がい者の対応方法や、生じやすい特性を情報として理解できると思います。
以下、ほとんどの障がい者対応に共通している内容は下記の通りです:
・1回の会話で1つのことを指示したり、知らせる。複数のことを伝えようとすると混乱する場合がある。
・救護所の場所など、一度指示した場所を避難途中で忘れてしまうことがある。
・「わかった」「大丈夫」「はい」などの返事でも、指示を認識できていない場合もある。
・指示した場所の図や担当者の名前など、読みやすく、再確認しやすいようにカタカナやひらがなで書いたメモを渡しておくとよい。
・避難途中に突然、違う方向に走り出すこともある。
・直接、ゆっくりとわかりやすく、簡単な言葉で具体的に肯定的な表現で話しかけること。例:「走って逃げちゃだめ」→「ゆっくり歩いて安全なところに行こう」
・障がい者からの言葉での返事がわからない場合は、繰り返してもらったり、施設内の担当者や通訳できる人などに依頼すること。絶対にわからないことにわかったフリをせず、言葉以外の手段(絵や図、メモ、小さなコミュニケーションボードなど)を使って返事を確実に理解すること。
・通訳者がいたとしても目と心は障がい者に向けること。
・携帯電話のメモ帳やメールなど、画面上で会話することができる。
・長期避難に必要な装具や器具、酸素セットなどを具体的に聞き出す。
・盲導犬、聴導犬、てんかんやけいれん発作察知犬などが避難に同行する場合は、避難所運営者に同伴避難の必要性を伝える。
・一般的に障がい者は心身共に疲れやすいため、避難途中で休憩しながら移動する。
・障がい者に何も聞かずに勝手な行動をしたり、立ち去ったりしない。
・ある場所まで誘導する場合は、具体的に「ここにいると危ないので救護所に行こう。私の横について歩いてください」などと伝える。このとき、足下の見えない夜間であっても、いきなり障がい者の手を握ったり、体に触れたりせず、携帯ライトや身振り手振りで行く方向を示してみる。
・救護所に到着後、緊張や興奮など、さまざまな理由で不自然に見える行動を起こすことがあります。不安や恐怖に対処し、落ち着かせる行動が多いので、抑制することなく見守ってあげる。
・てんかんやけいれん発作がある障がい者はいつも服用している薬を持参したもらい、救護所であっても忘れずに飲むよう指示する。
・事態を把握してもらうために、いつも見慣れているテレビのニュースで教えてみる。
・障がいに応じて避難路ができるだけ、または必ずバリアフリーであることを確認しながら移動する。
・障がい者の就労先や家族へ、被災内容や避難先などの連絡を行う際のサポートを行う。
などなど、これ以外にもたくさんの情報を提供しています。
いかがでしたか?
日本国内にもたくさんの障害者福祉施設等の防災計画がありますが、ほとんどは文字の羅列で、避難計画立案に便利そうなフォームがあっても何を書き込んだらいいのかわからなかったり、難解なものです。下記の福岡県の「障害者福祉施設等 防災計画策定のためのマニュアル」はとてもわかりやすく、応用することで障がい者の在宅避難計画にも使える内容だと思います。
■「障害者福祉施設等 防災計画策定のためのマニュアル」(福岡県HPより)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/188827_51470498_misc.pdf
それでは、また。
当事者防災とは、災害時における要配慮者である、各種障がいをもつ方とその周囲の方々のための防災対策です。本連載では、世界にあるたくさんの当事者防災のヒントを具体例を挙げながらご紹介し、読者の皆さんとともに一緒になって力を合わせて「お互いの命を守り、みんなで助かる」当事者防災について考えてみたいと思います。
(了)
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