台風19号は東日本各地に大きな被害をもたらした。その中で川の氾濫、鉄砲水にあいながら早期避難で人的被害が全くなくやり過ごした自治体がある。長野県佐久穂町である。

台風19号で崩落した佐久穂町の道路(2019年11月30日、筆者撮影)

台風では要配慮者の逃げ遅れが必ず課題になるが、福祉避難所が事前に要配慮者の避難を受け入れることで難を逃れたのである。老人保健施設「さやか」の市川弘明事務長にお話を聞いたので、その概要をお伝えしたい。なお、市川氏からの聞き取り部分は私がまとめたものであり、必ずしも正確な文言ではない。また、私のコメントを<>に記す。

福祉避難所になった佐久穂町立の施設「さやか」

公助による避難支援

・「さやか」は佐久穂町立の施設で、町の地域防災計画で福祉避難所に指定されていた。10月12日朝9時に、第2次警戒レベルで福祉避難所の受け入れ態勢をとる。
・午後2時に、町の健康福祉課から受入態勢の確認と、施設でデイサービスを利用している高齢者と障がいのある息子さんの避難支援を頼まれる。約10キロ離れた地区までリフト付きの車両で迎えに行き、施設で受け入れた。このときの雨量は580ミリ/日を記録している。市川施設長が自ら車を運転し、要介護高齢者、障がい者の支援をしているが、これは障がい者介護の支援員をしていて経験が長かったため。前も見えない猛烈な雨で冠水して通れない箇所もあったが、無事、搬送を終えた。
・他にも町の要請を受けて、持病のある要介護者5人を自宅から福祉施設に近い町立病院まで避難の送迎を行った。

<佐久穂町地域防災計画283ページでは「要配慮者に配慮し、必要に応じて福祉避難所を開設する」と簡単に記述されている。「必要に応じて」をこのように解釈して、災害前の事前避難に活用した優れた事例だと感銘を受けた。また、高齢者・障がい者世帯の方を福祉避難所に、病気の方は事前に病院に避難させている。これは、公助による避難支援である。このような判断のできる自治体職員を私は心から尊敬する。なお、この地区は写真で見るように道路が崩落するほどの被害を受けている。>