連携のポイントは相手の尊重

30もの機関が日常的に連携するメリットは大きい。

「例えば、豪雨が降り出しそうなら、その情報は市が市民への避難警報に使うだけではなく、道路関係機関は道路が通行できなくなる事態に備え、電力会社は停電に備え、あるいは警察や消防は事故に備えるなど、1つのリスク情報が複数のサービスとつながっている」とジュンケイラ氏は説明する。その上で「自分達が情報のハブとなることで、事前に関係機関に危険性を一斉に周知したり、災害や事故が起きた際にも一斉にそのことを知らせることで影響を最小化させることができる」と、予測と対応の両側面において、重要な役割を持つとする。

一方で、連携に立ちはだかる壁もある。各関係機関はそれぞれの指揮者“ボス”のもとで情報を監視しているが、それぞれ活動の目的も役割も異なるため、プロジェクトマネジメントのように、1つの目的のもとに、それぞれの役割を統制しなくてはいけないとする。

「最も大きな問題は誰がボスかということだ。もし、ある関係機関が、自分たちの目的のために必要なソリューションの50%以上を持っているとしたら、私は彼らのボスになることはできない。彼らは自分のボスに従って自分の目的を達成するために働くだけだ。重要なことは、その関係機関のボスと私が、どうしたら市が今直面している問題について共通認識を持ち、目的を共有し、パブリックサービスの観点から話し合えるか。つまり、市民を助ける、市や地域を守るためにやらなくてはいけないことを共通の目的としなければいけない」(同)。

関係機関と足並みをそろえるポイントについてジュンケイラ氏は、常に相手を尊重し、相手の視点になって考えてみることだと言う。

コントロール・センターでは、毎朝7時15分、午後3時、午後11時の1日3回、関係機関の担当者が集まり、スタンディング・ミーティングを行っている。

「10分間なので座る必要はない。例えば、朝の会議なら、“今日は午後1時にダウンタウンでデモが予定されているとフェイスブックで見たから気を付けよう”。あるいは“道路で水漏れが起きていて、ひょっとしたら大きなくぼみができるかもしれないから、車が近づかないように回り道を用意したほうがいい”“バスの運転手がストライキを起こした”など情報を共有する。そして午後3時のミーティングでは“デモはどうだった”“誰か情報を入手したか”など情報をフォローする」(同)。

平時には問題にならないことでも要注意

オリンピック期間中は、予期せぬ事態が起きても、迅速かつ効果的に対応にあたれるよう、2つのチームに分けてオペレーションが行われた。1つ目のチームは、コントロール・センター内から、大会施設が置かれたマラカナン、バーラ、デオドロ、コパカバーナの各地域について異常事態が起きていないか、公共サービスに影響を与えかねない事態が起きていないかなど重点的に監視にあたった。

コントロール・センター入口は、厳重に警備されている

もう1つのチームは、市内の別地区に位置する都市交通センター(市の交通機関と州の交通部門が運営する施設)内からオペレーションにあたった。小さな施設だが、地下鉄や、路面バス(BRT)、路面電車(VLT)などの運行状況や乗客の様子が監視できる。

「平時では問題にならないことでも、オリンピックのような大規模イベントでは大きな困難になり得る」とジュンケイラ氏は語る。例えば、1カ所に多くの人が停滞して道が通れなくなったら、選手や大会関係者の足を止めてしまい、大会プログラムに影響を与えかねない。交通の流れは大きなプレッシャーだったとジュンケイラ氏は振り返る。

緊急事態を乗り越えた

オリンピックを迎える少し前の今年3月12日の土曜日、コントロール・センターの真価が問われる事態が発生した。この日、リオデジャネイロ市は、大雨により、ここ数年で最も深刻な緊急事態に見舞われた。マラカナンの近くで発生した雲は次第に大きさを増し、水分を減らすことなく停滞。夜8時を回った頃から記録的に激しい雨を降らせた。4時間に100㎜に迫る降雨量。局所的には1時間で60㎜を超える地区もあった。市内では洪水が発生し車が通れなくなる中、いくつかの山沿いにあるファベーラと呼ばれるスラム街で数千人を安全に避難させる必要があった。

コントロール・センターでは、50㎜の雨量を超えた地点から繰り返しアラートを出し、被害を最小限に抑えた。不運にも、住居に残って自宅の近くで作業をしていた2人が命を落としたが、「危険を予測し、異常事態であることをコミュニケーションにより事前に住民に理解をさせることができたことは大きな成果」とジュンケイラ氏はコントロール・センターの対応を評価する。

教訓を次に生かす

コントロール・センターでは、さまざまな緊急時の教訓を次に生かせるよう特別チーム「リオ・レジリエンス」を設置している。ジュンケイラ氏は、ここでのリーダーも兼ねる。「リスクに備え、監視をして、従事して、リスクが顕在化したらコミュニケーションをして対応にあたり、最後には学ぶ。この学ぶことがもっとも重要」とジュンケイラ氏は強調する。

「交通事故がわかりやすい例だが、交通事故が起きやすい地区は当然、信号をつけたり、スピードを落とす工夫をする。これと同じように、すべてのリスクについて経験から教訓を導き出し、リスクを減らす投資に結び付けていくことを目指している」(同)。

市では、今年5月、こうしたレジリエンスの取り組みを国際的に発表した。ロックフェラー財団や国際的非営利団体らが中心となりネットワークしている100の強力な都市の支持のもと、2035年までに世界的なレジリエント・シティになることを目指すという。

(了)