近年における世界情勢は、政治、経済、社会、全ての面で流動化しています。特に、下記のような点が特筆されます。

■ グローバリゼーションの進展
■世界的な格差の拡大
■欧米諸国等における右傾化
■世界的な大衆迎合主義的な政策の増加
■一部国家における言論統制・報道検閲の限界
■人口増加と都市化の進展
■民族・宗教問題の混迷化
■Homegrown Terrorist / Lone Wolf Terrorist等による新たなテロ脅威 等々

上記のような傾向は2017年も継続するものと見られています。特に、2017年に顕在化すると予測されるリスクを今回から10回にわたり、見ていきたいと思います。

【2017年グローバルリスク予測】

1.グローバリゼーションの更なる進展と世界的な社会的不安の拡大
2.欧州諸国における右傾化傾向の高まり
3.国際機関の更なる機能低下
4.中国情勢の不安定化
5.朝鮮半島情勢の緊張化
6.中東情勢の不透明化(シリア・イラク・トルコ・サウジアラビア・イラン等)
7.米国の国際的なプレゼンスの低下
8.ロシアの孤立化
9.Homegrown Terrorist/Lone Wolf Terroristによるテロの増大
10.自然災害の増加・新たな感染症の発生

 


1、グローバリゼーションの更なる進展と世界的な社会的不安の拡大

ブラジル・リオジャネイロ市近郊に広がる「ファベーラ」と呼ばれる貧民街 (撮影:中澤幸介)

【予測されるリスク】

■政治的に安定しているとされている国でも政治的に流動化する可能性
■特にジニ係数が0.45を超える国が要注意(中国・ブラジル・メキシコ・南ア・フィリピン・メキシコ・タイ・マレーシア・シンガポール等)

ジニ係数…所得や資産の不平等あるいは格差をはかるための尺度の1つ(出典:Wikipedia)

【背景等】

■近年のグローバル化の進展に伴い、人・もの・金・情報・サービス等が短い時間(または瞬時)に移動し得る世界となっています。このことはビジネスにおいて非常に有利な状況となっていますが、いろいろな問題も抱えることとなります。例えば、新興国と言われる国においては、言論の規制、報道の検閲が行われることが多いのが実情です(図表参照)。しかしながら、SNS等の検閲も限界に達しつつあるとされており、「アラブの春」のような状況が他の地域でも発生する可能性があります。

写真を拡大 出典:CIA "World Factbook“/IMF "World Economic Outlook Oct., 2016"/Economist Intelligence Unit "Democracy Index"/Reporters Without Borders "Worldwide Press Freedom Index"

■グローバル化の進展は、格差拡大の要因となっていることが昨今の大きな特徴であるとされています。例えば、日本、欧米等の企業は、生産コストの削減を目的に、新興国等へ進出し、単純労働を中心に生産移管するケースが少なくありません。そのため、現地で従事する下位層の所得が相対的に上がり、これらの層が拡大する傾向となっています。一方で、新興国等では、教育・資本等を有する上位層が、グローバル化の恩恵を享受する場合が多く、これらの層が富裕層化するケースが少なくありません。そのため、相対的に中間層が減少する傾向が強く、このことが社会の不安定化の要因となっています。

■また、新興国がグローバル化によって、単純労働等への需要拡大を基に経済成長を遂げ、中所得国(1人あたりのGDPが3,000~10,000ドル)に入ることは、それ程難しいことではありません。しかしながら、その後、自国の人件費上昇、後発新興国との競争激化、先進国の先端イノベーション(技術力等)との格差等により競争力を失い、経済成長が停滞する状況が発生することが多くあります。具体的には1人あたりのGDPが10,000ドルから20,000ドルには中々達しない現象で、「中所得国の罠(Middle Income Trap)」と称されています。

■この罠を回避するためには、産業の高度化、必要な技術の獲得、人材育成、社会変革(金融システム整備等)、腐敗・汚職の根絶等が必要となりますが、新興国の多くで、それが進んでいない状況となっています。このことが中間層の拡大を抑制することとなり、格差是正を阻害する要因となっています(図表からも新興国の多くで1人あたりのGDPが20,000ドル以上の国が非常に少ないことが分かる)。

■一般的に格差の指数であるジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化するとされていますが、図表によると、新興国の多くで0.4を超えていることが分かります。このことは、多くの新興国で社会が不安定化する要素を内包していることを示しています。

■上述のような格差拡大については、英国に本部を置く国際協力団体Oxfam Internationalが2016年1月18日に発表したレポート「An Economy for the 1%(1%のための経済)」に、衝撃的な内容が記載されています。それによれば、世界で最も裕福な62人の総資産は、世界の下位半分(36億人)が所有する総資産とほぼ同じで、2010年から15年にかけて、世界の人口が4億人増えたにもかかわらず、世界の貧困層の総資産は約1兆ドル減少(41%減)したとされています。一方、世界で最も裕福な62人の総資産は、同時期に約1.76兆ドル増加(44%増)したとされており、格差の拡大が世界規模であることを物語っています。

■一般的に資本主義経済においては、発展段階では格差が拡大しますが、その後格差は自然に縮小し、格差は是正される(サイモン・クズネッツの仮説)とされていますが、2013年にフランスで発刊されて以来、多くの国でベストセラーとなっているトマ・ピケティの『21世紀の資本』では、この仮説は否定されており、昨今のグローバル化の急激な進展により、格差是正への自浄作用が機能していないとされています。

■これら格差拡大に伴い、世界的に中間層が相対的に減少する傾向となっています。この中間層の減少は、政治体制への適正なチェック機能を低下させると共に、政府に大衆迎合的な政策(ポピュリズム政策)をとらせる傾向を助長しています。このことが社会の不安定化をもたらし、最終的に政治体制の急激な変化の可能性を増大させることとなります。

(続く)

(了)