経済格差の拡大がトランプ新大統領の誕生につながった(出典:flicker)

近年における世界情勢は、政治、経済、社会、全ての面で流動化しています。2017年に顕在化するであろう10のリスクを、以下の通り予測しました。前回に引き続き、一つずつ解説を行います。

【2017年グローバルリスク予測】

1.    グローバリゼーションの更なる進展と世界的な社会的不安の拡大
2.    欧州諸国における右傾化傾向の高まり
3.    国際機関の更なる機能低下
4.    中国情勢の不安定化
5.    朝鮮半島情勢の緊張化
6.    中東情勢の不透明化
 (シリア・イラク・トルコ・サウジアラビア・イラン等)
7.    米国の国際的なプレゼンスの低下
8.    ロシアの孤立化
9.    Homegrown Terrorist/Lone Wolf Terroristによるテロの増大
10.    自然災害の増加・新たな感染症の発生

 

【予測されるリスク】
・世界的な問題への不干渉の姿勢の拡大
・世界的な地政学リスクの高まり等

【背景等】
現状においても、所得や資産の不平等といった格差をはかるための尺度となるジニ係数は米国で0.45に達しており、先進国の中でも高い経済格差となっています。特に2000年以降は、賃金の伸び悩み、不動産価格・教育費の上昇等により、中低所得層・若者層の経済的負担が増大し、不満が急激に拡大することとなりました(2016年の大統領選挙に伴う民主党候補者選で、最低賃金引き上げ・大学授業料無料等の主張を行ったサンダース候補が、低所得者、若者層から高い支持を受けたことは記憶に新しいところです)。

2011年9月には、多くの市民がウォール街を占拠する「Occupy Wall Street」が2カ月にわたり実施されましたが、そのスローガンは「We are the 99%」でした。これは、米国政府が発表した2007年度の所得に関する統計において、富裕層上位1%が米国の全ての資産の34.6%を所有し、所得シェアの23.5%を占めていることに由来するものでした。特に、近年においては、米国内での格差の拡大傾向が顕著であり、中間層が縮小する状況となっています。

そのため2015年以降、警官による黒人射殺事件に端を発したデモ・暴動等が数多く発生し、一部の州では州知事が非常事態宣言をする事態となっていますが、これらの背景としても、格差拡大が端を発していることは言うまでもありません。

そのような状況で行われた2016年の大統領選挙では、両候補とも相手を批判するネガティブキャンペーンに終始する不毛な選挙戦となりましたが、中間層が縮小する傾向の中で、中低所得者層の懸念を反映し、「Make America great again」を掲げ、米国内での雇用維持を掲げたトランプ氏が僅差で勝利する結果となりました。

一方で今回の大統領選挙は、どちらかと言えば、消去法でトランプ氏が勝利する結果となりましたが、選挙戦で標榜された公約等は、世界のリーダーとしてあるべき内容はほぼ皆無であり、国際社会での米国の威信が大きく低下したことを印象づけました。

トランプ氏の公約において、外交問題は非常に少ないことから、今後の米国の外交姿勢は不透明な状況です。しかしながら、国際社会への関与が低下する傾向は確実であることから、世界の地域紛争(ウクライナ・イラク・シリア・イエメン・アフガニスタン等)等に積極的に関与しないとの印象を世界に与えています。

このことは、2017年において米国は地域紛争等の世界的な問題へ干渉しないという印象を与えることとなりました。米国の干渉が減ることで、地域紛争が簡単に起こりうる可能性が高まります。これにより、世界的に地政学リスクを高める可能性が非常に高い状況であると言わざるをえません。

(了)