壊滅的被害を克服した奇跡の企業

3.11については、改めて書くまでもないでしょう。この雑誌を立ち上げてから、最も多くの取材時間を費やしてきました。同時に、一番自分の無力さを感じた瞬間でもあります。

多くのことが思い出されますが、最も心に残っているのはオイルプラントナトリという、工場が丸ごと津波で壊滅したにもかかわらず、BCPを策定していたことで被災後1週間から業務を再開した奇跡とも言える中小企業の事例です。

工場全体が壊滅的な被害を受けながらも1週間で事業を再開したオイルプラントナトリ

この会社は、東日本大震災が起きる直前の2011年1月にBCPを策定したばかりでした。その中身は、被災時に優先的に継続すべき「中核事業(特に重要な事業)」や、その事業を行うために必要な経営資源、代替となる資源などがわかりやすく整理されていて、そのことにより被災後も復旧の手順が明確になったといいます。

ただし、私がそれ以上に注目したのは初動でした。同社のBCPでは、津波で被災するということはまったく想定されておらず、災害時の避難計画としては工場の駐車場で安全待機することになっていました。リスクアセスメント的には不十分だったと指摘されても仕方ないでしょう。ただし、県も市も津波の高さを想定できていなかったのです。それにも関わらず、停電の中、非常用発電機でテレビとラジオをつけ大きな津波がくるという情報を知り、社長と常務が中心となり、全従業員を3㎞程先まで避難させたことで一人の犠牲者も出しませんでした。運搬中のドライバーもいましたが、彼らも自己判断により適切な避難行動をとったのです。

津波により被災した石巻市沿岸部の門脇町・南浜町地区。口先だけでBCPという言葉が言えなくなった

(続く)