ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
人口集中による災害リスクや市民デモが課題
第3回:アテネ(ギリシャ)
国際大学GLOCOM/
主任研究員・准教授、レジリエントシティ研究ラボ代表
櫻井 美穂子
櫻井 美穂子
ノルウェーにあるUniversity of AgderのDepartment of Information Systems准教授を経て2018年より現職。博士(政策・メディア)。ノルウェーにてヨーロッパ7か国が参加するEU Horizon2020「Smart Mature Resilience」に参画。専門分野は経営情報システム学。特に基礎自治体および地域コミュニティにおけるICT利活用について、レジリエンスをキーワードとして、情報システム学の観点から研究を行っている。Hawaii International Conference on System Sciences (2016)およびITU Kaleidoscope academic conference (2013)にて最優秀論文賞受賞。
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古代都市かつ巨大人口圏の中心
今回は、ギリシャの首都アテネを取り上げます。アテネについては皆さんよくご存じかと思います。プラトンをはじめとする偉大な哲学が生まれた街であり、都市や民主主義の発祥の地として知られています。アテネ市自体の人口は66万人程度ですが、アテネを中心とする地域圏には350万人が住んでいます(自治体の数で言うと全部で66)。ギリシャの人口が1000万人程度ですから、およそ3分の1の人口がアテネ都市圏に集中していることになります。
アテネ市のレジリエント戦略のキーワードは、「オープン」「グリーン」「プロアクティブ」「活気に満ちた(Vibrant)」の4つです。65のアクションと、それを支える53の支援アクションで構成されています。
アテネが抱えるチャレンジ
アテネと聞いてみなさんが思い浮かべるのは、近年の経済危機ではないでしょうか。経済危機に端を発した雇用の不安定、収入の減少、個人債務の増加――はアテネの大きな負の影となっています。気候変動による災害のリスクも高まっています。例えば、歴史の古いビルが多いアテネ市内では、異常気象に対応できる設備が整っていません。市内の平均温度が上がるヒートアイランド現象によって、市民の23%が電力不足に陥ると推定されています。
アテネが抱えるショック(短期)とストレス(長期)は以下の通りです。
<ショック>
・地震、温暖化、空気汚染
市内の建築物の3割以上が、耐震性コードの定められる以前に造られています。市内は人口が密集しており、道も狭く、共用スペースも限られています。
・デモンストレーションの増加
市内中心部でほぼ毎日デモンストレーションが行われています。2011年から2015年までの平均では、1日に15件に上ります。
・サイバー犯罪
サイバー犯罪はアテネ市にとって新しい脅威です。2016年は最も多く攻撃を受けた年であり、世界の他の都市と比べても高い確率で攻撃に遭っています。
<ストレス>
・経済状況
前述の通り、街の長期的なストレスになっています。2017年のアテネ地区の失業率は22.7%に上りました。
・インフラ老朽化
こちらも前述の通り、古い建物が多く、都市を襲うさまざまな脅威に対応できていません。市の予算が削減されている中で、建て替えも思うように進んでいません。
・難民
ギリシャ全体で、2016年までに6万人を超える難民を受け入れています。そのうち約2万人がアテネに住んでいます。100万人を超える人々が、ギリシャを通り抜けてヨーロッパの他の国に向かいました。
・信頼の欠如
市民と行政の間の信頼はほとんど醸成されていません。これまで何十年にもわたり透明性や説明責任の欠けたガバナンス体制だったため、その結果でもあります。
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