ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
人口急増や家庭燃料ニーズの上昇への対策
第1回:グラスゴー(英国)
国際大学GLOCOM/
主任研究員・准教授、レジリエントシティ研究ラボ代表
櫻井 美穂子
櫻井 美穂子
ノルウェーにあるUniversity of AgderのDepartment of Information Systems准教授を経て2018年より現職。博士(政策・メディア)。ノルウェーにてヨーロッパ7か国が参加するEU Horizon2020「Smart Mature Resilience」に参画。専門分野は経営情報システム学。特に基礎自治体および地域コミュニティにおけるICT利活用について、レジリエンスをキーワードとして、情報システム学の観点から研究を行っている。Hawaii International Conference on System Sciences (2016)およびITU Kaleidoscope academic conference (2013)にて最優秀論文賞受賞。
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100 Resilient Cityとは?
「100 Resilient City (100RC)」プログラムは、ロックフェラー財団が2013年に始めた戦略的プログラムです。今年の7月まで、6年間続きました。これは、世界中から100の都市を選定し、レジリエント戦略の策定支援を行うというものです。策定支援には、ロックフェラー財団からの財政的なものと、プログラムに参加する企業や団体(シスコやブリティッシュカウンシルなど)から無償でコンサルティングやリソースの提供が受けられるものがあります。選定された都市は、財団からの財政援助を活用して、CRO(チーフレジリエントオフィサー)を任命することができます。私自身、ヨーロッパで働いていた時、100RCに選ばれた街と一緒に仕事をしていました。私がお付き合いのあった街では、CROは都市計画などの学術出身者が多かった印象があります。各街の首長やCROを中心とした、100RC同士のネットワーク形成もプログラムの重要な目的となっています。
スコットランド最大の都市「グラスゴー」
100RC連載の第1回は、イギリス・スコットランドの最大都市であり、古い歴史の街でもあるグラスゴーを取り上げます。100RCでは、都市のレジリエンスを高めるために、各都市が抱える課題を短期的な課題(ショック)と長期的な課題(ストレス)に分けて定義しています。この連載でも、各都市におけるショックとストレスをご紹介した後に、それらの課題解決に向けたレジリエント戦略のエッセンスを提示したいと思います。
産業革命のきっかけとなった、蒸気エンジンの着想をジェームズワットが得たのが254年前。グラスゴー市内の緑道を歩いていた時だといいます。その産業革命の恩恵を受け、19世紀後半には大英帝国第2の都市にまで発展しました。特に造船業による産業が栄えました。20世紀には人口が110万人に迫るピークもあったものの、その多くが街の外に移住をしたため、1990年代には市の人口は半分程度の60万人弱となります。2011年時点の人口は59万2820人となっています。現在は金融業を中心に発展を続けているスコットランド最大の都市です。
グラスゴーでは、2037年までに人口が15%増加すると予測しています。産業化により街の発展を遂げた19世紀から、21世紀型の低炭素社会を目指してトランスフォーメーション(転換)のさなかにいます。英国、さらにはEU諸国との商業活動におけるハブとしての役割を担い、雇用は毎年3~4%水準で上昇しています。市内には3500ヘクタールの緑地があり、91の公園があります。
グラスゴーでは、長期的な課題(ストレス)として、主に次の点を挙げています。
・人口の急増(今後20年間で15%)
・58%の住民が空き地や工場跡地など廃棄された土地の近く(500メートル圏内)に居住
・36%の家庭で燃料のニーズが上昇
・ 暴行事件の発生が全国平均の2倍
・ 交通渋滞の悪化
・ 社会から孤立する人の増加
・ 収入の格差が拡大
さらに短期的な課題(ショック)として、自然災害の危険性も存在します。
・ 気候変動による局地的豪雨や洪水の危険性
グラスゴーのレジリエント戦略
これらのストレスとショックを克服するため、グラスゴーのレジリエント戦略では次の4つの柱を掲げました。
【レジリエント戦略4つの柱】
①グラスゴー市民のエンパワーメント
②廃棄地の有効活用
③健全な経済成長への支援
④市民参加の強化
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