2016/07/22
防災・危機管理ニュース
リオ五輪に立ちはだかる壁
山敷教授は、独立行政法人国際協力機構(JICA)の短期専門家として、またペトロブラスの招聘などにより、CEMADENの立ち上げ当初から、防災体制などのアドバイスに関わってきた。「優先順位からすれば、警察機構の維持整備が自然災害時の体制整備に優先することは間違いないので、リオ五輪のためだけにCEMADEN-RJを復活させるのは妥当とは考えられていない。また幸いオリンピックはリオの冬季にあたるため、比較的、極端豪雨による土砂災害は少ないとされている。しかし、ここ数年、日本政府などの協力も得ながら行ってきた事業が、その組織ともどもなくなってしまうという異常事態の元でのオリンピック開催となることにはとても心配していると同時に、リオデジャネイロオリンピックの成功を目標に限りない努力を行ってきたすべての防災関係者の労苦を厭う」とブラジルの現状を危惧する。
リオ五輪の開催権は2009年10月に決定した。当時、ブラジルはBRICsの一国として、高度経済成長を遂げ、多くの国民が輝かしい国の未来を信じていた。その経済を支えていたのが海洋石油資源だ。リオ・デ・ジャネイロはその開発の中心地として、2010年ごろ、「史上最高」といわれるほどの景気と、低い失業率を誇り、誰もが街の生まれ変わりを疑わなかった。ところが世界の原油の価格が大幅に値下がりしたことから、原油ビジネスは大きな打撃を受け、さらに主要貿易先の中国の景気減速が足を引っ張り景気は悪化。さらにインフレが起こりブラジルは1930年代以来といわれる経済危機に陥っている。
そこに加え、ブラジル政治史上最大ともいわれる汚職事件が追い打ちをかけている。リオに本社を置き、これまでリオ経済を支えてきた国営石油会社ペトロブラス(本社リオ)と政界関係者らの汚職の連鎖があぶり出され、大統領の弾劾裁判にまで発展した。ルセフ大統領が所属する労働者党の多くの党員が罪に問われており、さらにルセフ氏自身も政府が国の財政赤字を隠蔽した疑惑で、最高180日の停職処分となり、現状では、大統領不在の中で五輪が開幕する可能性が高い。
山敷教授は、景気が良いことを前提としたオリンピック開催に警笛を鳴らす。
「技術的や体制的な問題で自然災害を防ぐことができなかった事例は世界に数多く存在するが、技術や防災体制が一旦整備された後、経済危機によりその体制がストップした例はあまりない。しかもオリンピックという史上最大のイベント直前という時期を考えると、尋常ではない。しかしながら、ブラジルの例は、今後の世界の危機管理体制に大きな問題を投げかける事例となっている。すなわち、リスクマネジメントにはお金がかかり、その資金を支払い続けるシステムを維持できないところは、そのシステムそのものとともに崩壊する危険性がある。東京オリンピックも、現在の好況な経済を背景に、莫大なインフラ整備を行うことを前提として、その直前に大規模な自然災害や経済危機が発生すれば、その開催条件の根底を揺るがす事態の発生もあり得る。オリンピック開催は、そのような緊急事態も想定した上で準備を進めるべきであろう」(山敷教授談)。
1:地元メディアには2011年の土砂災害後の山敷教授の調査・支援活動が紹介されている。
http://oglobo.globo.com/mundo/missao-japonesa-visita-rio-com-objetivo-de-contribuir-na-area-de-prevencao-de-catastrofes-2809487
2:CEMADENのウェブサイトには、山敷教授による職員研修が紹介されている。「当時はまさかRIO支部が閉鎖になるとは考えていなかった」と山敷教授は話している。
http://www.cemaden.gov.br/cemaden-discute-reducao-dos-impactos-provocados-pelos-desastres-naturais/
(了)
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