3.避難 何を目安にするか「避難スイッチ」を

避難についてはさまざまな記事やTV番組で触れられているのでここでは述べません。ハザードマップや過去の水害を学んで、お住まいの地域でどうなったら危ないか、何を避難の目安にするか、一人一人が「避難スイッチ」を作っておくといいでしょう。避難所に避難するだけが避難ではなく、家の2階やマンションでは中高層階に留まるのも避難です。

4.水害に遭ったら 家を買うときにはリスク考慮

災害に遭った後の対処の3原則は「慌てない」「写真を撮る」「支援制度を調べる」です。床上浸水に遭った被災者は皆、家具や家電製品はひっくり返り、床は泥だらけ、室内のものは散乱して、どこから手を着けていいか分からずパニックだったといいます。ですがまずは深呼吸して落ち着きましょう。その前に、浸水エリアや家の中に入るときはマスクをすることを忘れずに。水と一緒に流れてきた有機物や濡れたものに繁殖するカビなどの有機粉じんの空気中の濃度が屋外でも通常時より高くなっています。有機粉じんを吸い込むと、ぜん息などのアレルギー疾患を持っている方は症状を増悪させる可能性があります。

■家の外部4面から写真を撮る
さて家に戻ったら、家の外部は4面それぞれ、家の内部は濡れて使用不可になった家財や、床からの浸水した高さが分かるもの、その他気が付いたものは何でも写真に撮っておきましょう。物差しや巻き尺があれば、浸水深を分かるように当てて撮影しておくといいでしょう。さまざまな公的支援を受けるのに必要になることがあります。写真を撮ってから、片付けを始めてください。無垢材でできた家具は洗浄、消毒すれば再利用できますが、合板でできた家具や畳、家電製品は廃棄します。

■エアコン室外機などは基盤を洗浄
エアコンの室外機やエコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)は基板を洗浄すれば使える可能性がかなり高いです。メーカーでは対応しないので、街の電気屋さんに問い合わせてください。洗浄が終わるまで電源を入れてはいけません。基板がショートして壊れてしまいます。

■床下の水を抜き取る
家の中の水損したものを捨てたら、床下の応急処置をします。床下の構造は時代により大きく変わってきました。最近の家はベタ基礎になっていて、昔の家にあったような基礎の通気口は見当たりません。床下浸水だと水が入りにくいですが、床上浸水では基礎と家屋本体の隙間から水が入ってしまいます。一度水が入ってしまうとプールのようになり抜けません。そこで活躍するのが先ほど述べたポンプです。台所などにある点検口からポンプを床下に入れ、水を抜き取ります。さらにわずかに残った水を水を、吸引できるポンプで吸い取ります。床下にグラスウール断熱材が使われている場合は、乾燥せず床の木材がかびる原因になるので必ず除去して下さい。古い家だと床下に水はたまりませんが、代わりに水が運んできた泥が溜まってしまうことがあります。異臭を放ったり、床下が乾燥しないためにカビや木材が腐る原因になるので、できるだけ除去してください。

■ダクトファンで1カ月乾燥
水や泥を除去したら、ダクトファンなどで床下に送風して乾燥させます。この乾燥に1カ月程度はかかります。ベタ基礎のコンクリートは見た目すぐ乾くように見えますが、コンクリート内部を取り出して試験したところ、元の水分率に戻るには2カ月はかかるという実験結果もあります。とにかく、乾燥第一です。

■濡れた壁の石膏ボード・断熱材は切り捨てる
床上は、濡れた高さより少し高いところまで壁の石膏ボードは切り捨てます。放置すると石膏ボードがかびて、健康被害につながる恐れがあります。壁内の断熱材についても同様に切り捨てます。断熱材がどの高さまで濡れているかは、先述の特殊な水分率計で知ることができます。床上も十分乾燥するまで待ってください。木材であれば水分率15%以下が望ましいとされています。木材水分率だけであれば、1500円程度でAmazonなどで売っている水分計でも分かります。避難している場合でも、日中戻って開けられるだけの窓は開けて乾燥に努めてください。

■カビの除去
木部にカビが発生する場合は、塩化ベンザル二ウム(商品名オスバン)を決められた濃度に水で希釈したり、消毒用エタノールはそのままで、スプレーで噴霧したり布に湿らせて拭き取って消毒します。水に薄めるタイプの消毒剤は使った後の乾燥にも注意してください。消毒剤は使ったがその後の乾燥が不十分で逆にかびたという事例もありました。

■り災証明をもらう
個人あるいは業者、ボランティアに依頼して応急処置が終わったら、次に支援制度を調べてください。「り災証明」が、さまざまな公的支援の基礎になります。被災したら必ず自治体に申請してもらいましょう。「り災証明」は、法律により災害の大小によらず発行することが自治体に義務付けられています。大規模水害では、申請を待たずに先行して自治体が調査します。住家は、内閣府の定めた基準に基づき、「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」に区分されます。「床上浸水」「床下浸水」ではなく、浸水深だけで決まるものではありません。一軒一軒、家の中に立ち入り、壁、床、天井などの浸水状況や水圧による傾きを点数化し、それを合計した数値で決めます。ただし、非常に被災戸数が大きい場合は、簡易的な手法で判定することもあります(西日本豪雨の倉敷市真備町など)。

■応急修理制度や被災生活再建支援制度
被災戸数が人口に対してある割合に達すると、災害救助法により半壊以上では応急修理制度が使えます。現在は60万円弱です。被災者が直接お金をもらえるのではなく、業者さんが修理完了すると自治体から代金を受け取ります。また、全壊が10戸以上になると被災者生活再建支援法が適用され、大規模半壊以上で支援金が自治体から受け取ることができます。全壊の新築で300万円です。ただし、いずれも基準以上の規模の大きい水害です。一軒の裏山が崩れた、といった災害では全壊でも支給はありません。「備え」の章にも書きましたが、水災の保険に入ることが水害では一番大事です。

■所得税の雑損控除
災害の規模によらず使える制度としては、所得税の雑損控除/災害減免法による軽減免除があります。どちらか片方を選びます。確定申告して控除されます。復旧に要した費用を医療費控除のように領収書・レシートを集めて申告する方法と、り災証明に基づいて簡単な計算式で損害を評価する「合理的な計算法」があります。「合理的な計算法」で40代夫婦子ども2人だと、全壊では、家財だけで1000万円程度の控除額となり、多くの方で所得税は0円になります。さらにこの情報は市町村に回されて、住民税も極めて少額になります。1年で控除しきれない額は3年後まで繰り越して控除できます(毎年確定申告が必要)。所得税を納めている方でないと受けられない制度ですが、支払う税金が大幅に減り、住まいの再建に役立つ制度なので大いに利用してください。なお、お墓も対象です。「お墓のみ被災」でももちろん使えます。お墓に関わる公的支援制度は、筆者の知る限り、雑損控除だけです。

国税庁のYouTubeチャンネルでも分かりやすく説明しています。

「災害等にあった時の税の軽減」(出典:YouTube)

制度を調べたり、さまざまな申請をしているうちに1~2カ月は過ぎるでしょう。浸水家屋の乾燥にはちょうどよい時間です。木材の水分率が十分下がったことを業者に確認してもらって修理を始めてください。被災後すぐリフォームしたがまたかびてやり直した、家を解体した、という話は水害のたびに聞きます。浸水部材の除去と乾燥が、浸水住宅の修理には不可欠です。

5.これから住まいを求めようとする方へ

地震と違い、水害はある程度避けることができます。「山は崩れ、平地は浸かる」わが国にあって絶対安全といえる場所はなかなかないですが、リスクの大小は自治体の作成しているハザードマップである程度分かります。かつて池や川だった場所は、水害になれば元に戻ろうとするものです。その点では古地図も大事な資料になります。注文住宅の展示会に行って驚くことを聞かされました。「建てたい住宅に合う土地を探しますよ」と。そこに災害リスクの一言もありません。「交通の便が良い」「学校が近い」「通勤しやすい」「お店が近い」「南向き」「安い」などは、普段の生活では大事でしょう。でもひとたび災害に遭えばその土地の自然の性質が露わになります。人の都合は関係ありません。命を守り、財産を守るために、これから土地を求め家を建てる方は、ぜひとも災害リスクの低いところに住まいを構えてほしいと願います。

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水害にあったら何をすべきか?(前編)
水害にあったら何をすべきか?(中編)
水害にあったら何をすべきか?(後編)
 

 

(了)