2016/06/02
【6月第1特集】 熊本地震の検証 6人の専門家に聞く“教訓をどう生かす?”
前震活動は、大地震の予測に有用な場合もあります。しかし、ある場所で地震が起きたとき、その地震が前震であると判断するのは非常に難しいのです。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震でも2日前に宮城県沖でM7.5の地震が起きました。
このとき2日後に起きるM9.0の超巨大地震の前震であると考えた人はいませんでしたが、結果的にこの地震活動は前震でした。日奈久断層に沿っては、過去にさかのぼって調べると2000年6月8日にM5.0の地震が起きています。その後、M4.0の地震を含め多数の余震が起きましたが、より大きな地震は起きませんでした。
今回、4月14日にM6.5の地震が起きましたが、その後にもっと大きな地震が起きるとはなかなか予想できませんでした。実際、東北大学の西村太志教授の調査によると世界的にもM6の地震が起きた直後2週間以内にM7の地震が起こった事例は0.3%しかないそうです。
そしてM6.5の地震が起きて、その2時間37分後にM6.4の地震が起きました。同程度の規模の地震が起こったので、この活動は本震・余震型ではなく群発型(※2)ではないか、と考えた研究者も少なくなかったと思います。このように、M6.5が起きた段階でM7.3の地震発生を予想するのは困難なことでした。
今回の地震でもう1つ予想外だったことがあります。それは本震の余震域から飛び離れた所で地震活動が引き起こされたことです。4月16日の本震が起きた後、約1時間半後に本震の震源からだと約40㎞離れた阿蘇市直下でM5.8の地震が起きました。本震の震源断層の北東端からでも約10㎞離れています。そしてまたそのわずか50分後に、この阿蘇市直下の地震の震源から約10㎞離れた産山村直下でM5.8の地震が起きて阿蘇地方に大きな被害をもたらしてしまいました。
そしてさらに3時間余り経って今度は県を超えて大分県由布市直下でM5.4の地震が起きました。産山村の震源から40㎞近く離れています。このように飛び離れた場所で地震が次々に起きる現象は、地震観測が始まって百数十年の歴史の中では初めてのことです。
ちなみに阿蘇市と産山村の震源の間では、1975年1月にM6.1の地震が起きています。産山村と由布市の震源の間も1975年大分県西部地震M6.4の震源域と火山である久重山があります。このように過去の震源域と火山を残して地震が飛び火しているようです。
九州で過去最大の地震は、1924年、桜島が噴火したときに起きたM7.1の桜島地震です。ですから今回の熊本地震が、知られている九州の地震の中では最大となりました。そして、阿蘇山という火山の近くで起きたので、火山活動との関連が心配されます。過去の火山噴火と大地震の関係を調べたところでは、九州内陸の大地震の直後に火山が噴火した例はありません。
唯一、1922年12月8日M6.9橘湾の地震の約1カ月後に阿蘇山が噴火した例があるだけです。ただ、今回は震源断層が阿蘇の外輪山まで達しており、これほど火山近くで大地震が起きた例は無いので、やはり注意はしておくべきでしょう。
※2 群発型地震の代表例は、長野県松代町(現・長野市)で起きた松代群発地震が有名です。主な活動は1965年から1967年ですが、その間、最大M5.4の地震が2回、M5 以上が20回と飛び抜けて大きな地震はなく、有感地震は6万2826回と地震が頻発しました。
石川有三(いしかわ・ゆうぞう)
国立研究開発法人産業技術総合研究所活断層・火山研究部門招聘研究員、静岡大学防災総合センター客員教授
京都大学理学研究科博士課程中退、中国地震局地球物理研究所に1年留学、気象庁入庁後、気象研究所地震火山研究部主任研究官、研究室長、精密地震観測室長、地磁気観測所長を歴任。1990 年運輸大臣賞受賞。専門は、地震学・地震予知。
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