2016/06/07
【6月第1特集】 熊本地震の検証 6人の専門家に聞く“教訓をどう生かす?”
戦略的な被災企業の支援へ
熊本地震は自動車や半導体会社などの産業集積地を直撃した。供給網の寸断、ラインの停止は被災地だけの問題にとどまらず、瞬く間に全国、そして世界へと影響が及ぶ。そして、こうした産業が衰退することは、地域経済そのものの疲弊へとつながる。行政に求められるのは戦略的な産業復旧の支援だ。名古屋工業大学大学院教授の渡辺研司氏にどのような支援が必要か解説いただいた。
現地での行政機関・自治体担当者へのヒアリングを通じて、両者とも、企業の被災状況や、サプライチェーンの途絶といった動的(dynamic)な情報については、断片的にテレビ・新聞報道から入手していただけで、間接情報に基づいた一定の状況認識にとどまっていたことが分かった。
九州では、1970年以降、政策的に自動車産業、半導体産業を誘致してきた。このため、詳細レベルの企業情報が静的(static)情報として整備済みで毎年更新もされている。しかしながら、企業間の取引の流れ(商流)や、商量、頻度、手段、ルートやサプライチェーンにおける位置付けと、他社代替可能性などの情報で上記の動的・静的情報を有機的につなげる枠組みや仕組みは欠如していたように思う。
また、多くの静的情報は公開されているものの、電子化が十分とは言えない(例えば各種地図に関しては、カラー印刷地図の作製が目的でGIS位置情報として共有・活用できる状態にない)状況にあった。そのため、県では、県商工部門が把握している個別企業の被災状況などについては、災対本部会議ではなく知事他には個別レクチャーを実施していた。
一方で、知事以下、各部門では、住民対応に追われ、商工部門でも余裕がない状況だった。
また、個別企業においても、それぞれが復旧作業に追われる中、自治体や複数の行政機関などから被災状況に関する電話・メール・アンケートなどが投げかけられるので現場は多忙さを増しているようだった。
こうした状況から行政面での課題を整理するとすれば、①地域内の企業・産業活動の商流についての情報入手が困難なため、静的情報の確認と限定的な現状把握にとどまったこと、②県商工部門(産業振興、企業立地など)は住民対応業務の優先により、発災後しばらくは企業・産業の復旧支援の業務に手が回らなかったこと、③ナショナルブランドの大企業における生産や営業といったアウトプットの復旧が、必ずしも熊本域内産業活動の残留、地元企業との取引維持につながらないという危機意識を自治体・行政機関の職員が持つ余裕がなかったこと、などが挙げられるのではないか。
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