社内不正が起きる理由とその対策
第5回 社内不正リスク(上)
株式会社フォーサイツコンサルティング/
執行役員
五十嵐 雅祥
五十嵐 雅祥
(一財)レジリエンス協会幹事。1968年生まれ。外資系投資銀行、保険会社勤務を経て投資ファンド運営会社に参画。国内中堅中小製造業に特化した投資ファンドでのファンドマネジャーとしてM&A業務を手掛ける。2009年より現職。「企業価値を高めるためのリスクマネジメント」のアプローチでコンプライアンス、BCP、内部統制、安全労働衛生、事故防止等のコンサルティングに従事。企業研修をはじめ全国中小企業団体中央会、商工会議所、中小企業大学校等での講師歴多数。
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□事例:上司のプレッシャーで水増し
産業機械装置の製造を手掛けるA社では、数年前から製造だけでなく機械の関連商材(保守、コンテンツ、制御ソフト、消耗品など)のIoTサービスを開始しました。それに伴い、顧客や工場ごとに、産業機械の稼動量や、保守回数、消耗品の数などの利用実績に応じた請求業務を行うようになりました。Bさんはその請求業務を行う部署で、顧客の与信管理や口座照合などの業務を統括する責任者です。
A社では、経営陣が収益目標を設定し、従業員に対しその目標を満たすか、あるいは上回るようにプレッシャーをかけるのが常になっていました。Bさんの部署も例外ではなく、債権回収に対して高い目標値が設定されていました。
しかしながら、Bさんの部署では債権回収のノウハウも少なく、目標値をクリアできない期間が続いていました。そこでBさんの上司であるC部長は回収率の水増しを指示しました。最初はその指示に驚き、反対していたBさんも、C部長の「水増しによって経営陣が満足するなら、部署の職責を果たすことになり、待遇も変わってくる」「IoTサービスはA社の中でも急成長している分野なので、逸脱行為を十分に取り戻せるくらい収益が増加するから、最終的には問題は自然に修復される」という言葉に何となく納得してしまい、データの改ざんに手を染めてしまいました。
そのうちBさんの部署では、同僚や部下たちと「回収不能な債権を隠ぺいするより良い方法」や「帳簿を粉飾するノウハウ」などが当たり前のように話し合われるようになっていきました。
ある時、A社の監査人がBさんの部署の仕訳記入に異常があることに気付きました。責任者として監査人から問い詰められたBさんは、自らの不正行為を告白しました。
BさんはC部長と共に改ざんを主導した人物とされ懲戒解雇処分となり、同僚や部下たちにもさまざまな懲戒処分が下りました。Bさんは「上司の要求に屈し、部下を堕落させてしまった」と自らの行動を悔やんでいます……。
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