第7回:創造的対応への道 その1
災害対応の構成要素をつなぐ「のり」としてのデータが重要
国際大学GLOCOM/
主任研究員・准教授、レジリエントシティ研究ラボ代表
櫻井 美穂子
櫻井 美穂子
ノルウェーにあるUniversity of AgderのDepartment of Information Systems准教授を経て2018年より現職。博士(政策・メディア)。ノルウェーにてヨーロッパ7か国が参加するEU Horizon2020「Smart Mature Resilience」に参画。専門分野は経営情報システム学。特に基礎自治体および地域コミュニティにおけるICT利活用について、レジリエンスをキーワードとして、情報システム学の観点から研究を行っている。Hawaii International Conference on System Sciences (2016)およびITU Kaleidoscope academic conference (2013)にて最優秀論文賞受賞。
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前回は、「その場の状況を担当者個人の感覚や経験によって理解をし、その時に最善と思える対応」(これを創造的対応と呼ぶというお話をしましたね)が災害対応の鍵を握っており、創造的対応を可能にする環境整備が大切、ということをお伝えしました。
また、創造的対応を可能にする一つの推進力として、ドメインナレッジの重要性を説明しました。すなわち、当該分野における「知識」、平たく言うと日常で培われる業務やシステムへの「慣れ」です。このように、ドメインナレッジは、日常の「慣れ」から生まれるため、属人的なものと言うこともできます。キャピタルの考えに当てはめると、「人間資本」に付随するものになります。
ここまでを要約すれば、「災害対応の鍵を握るのは、その場にいる担当者が最善と思える対応をいかに行えるようにするかで、その対応力を発揮してもらうためには普段から使い慣れたものをしっかり準備しておくことが大切」ということです。
一方で、システムの観点から創造的対応を考察すると、災害対応の各構成要素を状況に応じてつなぎ合わせられるようにしておくことが大切で、それをつなぐ「のり」としての役割を果たすのは組織資本、つまり「データベース、ルーチン、特許、マニュアルなどに保存された構造的な知識や経験。人々が組織を離れた際にそこに残る情報や技術」と言えます。
これまでに紹介した3つの町の事例で共通していたのは、データ(具体的には、住民基本台帳データ)の重要性でした。サーバが水没したり、移転先での業務再開を余儀なくされたため、データをどのように復元するのか、あるいはどのように移転先で展開するのか、ということが、復旧プロセスにおける大きなチャレンジとして立ちはだかりました。
東日本大震災の被災自治体においては、個人情報保護の観点から、バックアップデータを町外ではなく、自庁内に保管していた自治体が多かったのです。庁舎外のデータセンターにバックアップデータを取っていたとしても、通信の断絶によりデータにアクセスできない状況となり、バックアップの目的を果たすことができませんでした。
数千年に一度と言われるような災害に備えるためにそれなりの投資をして庁舎外でバックアップデータを運用するよりも、ローカルで物理的に保管していた方が低コストで現実的な対応策だったと言えるかもしれません。しかしながら、現場における創造的対応を可能とするためには、「のり」となるデータが不可欠となったのです。
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