2019/04/24
ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
3.今後の世界遺産や重要文化財を守るための消防計画について
パリ市消防局では、今までにパリ市内の世界遺産の建物に対する消防計画(消防設備、火災防御、避難誘導、関係者の教育など)を作成してきたが、一度火災が発生すると今回のノートルダム大聖堂の修復費用のように、日本円にして1000億円の取り戻すことができない貴重な財産を失うことになることを再認識し、他の歴史的建造物における消防計画を再調査すること、また、改修工事中においても消防設備を常に機能できる状態に保つか、代替え消火設備を配備し、電気系統の火災予防はもちろん、たばこによる失火や防水シートなどの防炎などについても条例化を検討し、工事関係者や関係者にも教育していく計画を立てている。
今回、ノートルダム大聖堂の火災を受けて、各国における「歴史的建造物の火災予防と火災防御について」のマニュアルなどを調べてみたところ、イギリスの歴史保存協会が作成した内容が、かなり具体的で、日本の文化財を守る上でのさまざまな知恵を学ぶことができることを知った。
■Fire Safety for Traditional Church Buildings of Small and Medium Size
https://historicengland.org.uk/images-books/publications/fire-safety-for-traditional-church-buildings/fire-safety-traditional-church-buildings/
日本の文化財においても、芸術品を守るための外観を邪魔しない火災予防システム、また、火災が発生したときの消防設備の放水圧力や消火範囲、消火システムの仕組み、煙が発生したときの排煙システムや煙の流動装置を見直し、さらには、耐火壁・耐煙壁・耐水壁と排水設備も考える必要があるかもしれない。
特に過去の火災にもあったように、大規模改修中など、大勢の労働者などの工事関係者が入る時間帯と毎日の工事終了後は、たばこの不始末や電気工具の充電、工事配線作業後の通電状況など、ポイントを絞って火災予防を行ったり、さまざまな工事段階に応じた消防設備を常に使える状態にしておくことが重要になってくる。
また、重要文化財や世界遺産などの対象物は建物の消火だけではなく、消防のサルベージ隊(財産を守る隊)による、芸術的内容物の文化財の価値に応じた財産的なトリアージや絵画、ついたて、巻物、仏像などの運び出し想定訓練、現場におけるタグ付けと保護、盗難防止、搬送中の2次的損傷防止なども今後、検討する必要がある。
今回、数々のノートルダム大聖堂の火災映像を細かく見た中で感動したのは、活動を終え、または交代に向かう消防士たちに、沿道の観光客や住民たちが消防士に対する敬意と感謝、そして労いを表す拍手が惜しみなく送られているシーンである。
Incendie de Notre-Dame de Paris : les pompiers applaudis(出典:YouTube)
また、下記にいくつか参考になった、各国の重要文化財や世界遺産に対する詳細な管理計画の内容は、文化財の価値や構造、建物の目的や来客数、直近の公共交通機関や河川などの自然災害リスクなど、すべての影響を網羅した質の高いマニュアルである。
■Fire Risk Heritage
http://www.fireriskheritage.net
■2016 California Historical Building Code - California Office of Historic
http://ohp.parks.ca.gov/pages/1074/files/2016%20CA%20CHBC.pdf
■Flooding and Historic Buildings
https://historicengland.org.uk/images-books/publications/flooding-and-historic-buildings-2ednrev/heag017-flooding-and-historic-buildings/
ここまで、重要な人類の遺産に対する本気で守り続ける仕組みと実働体制の保持と向上は、日本も見習う必要があるのではないかと深く感じた。
重要文化財の火災防御や消防設備の見直し、消防活動全体について、講演希望の方は下記から、ご連絡ください。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp
ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/03
-
パリ2024のテロ対策期間中の計画を阻止した点では成功
2024年最大のイベントだったパリオリンピック。ロシアのウクライナ侵略や激化する中東情勢など、世界的に不安定な時期での開催だった。パリ大会のテロ対策は成功だったのか、危機管理が専門で日本大学危機管理学部教授である福田充氏とともにパリオリンピックを振り返った。
2024/11/29
-
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方