3.今後の世界遺産や重要文化財を守るための消防計画について
パリ市消防局では、今までにパリ市内の世界遺産の建物に対する消防計画(消防設備、火災防御、避難誘導、関係者の教育など)を作成してきたが、一度火災が発生すると今回のノートルダム大聖堂の修復費用のように、日本円にして1000億円の取り戻すことができない貴重な財産を失うことになることを再認識し、他の歴史的建造物における消防計画を再調査すること、また、改修工事中においても消防設備を常に機能できる状態に保つか、代替え消火設備を配備し、電気系統の火災予防はもちろん、たばこによる失火や防水シートなどの防炎などについても条例化を検討し、工事関係者や関係者にも教育していく計画を立てている。

今回、ノートルダム大聖堂の火災を受けて、各国における「歴史的建造物の火災予防と火災防御について」のマニュアルなどを調べてみたところ、イギリスの歴史保存協会が作成した内容が、かなり具体的で、日本の文化財を守る上でのさまざまな知恵を学ぶことができることを知った。

■Fire Safety for Traditional Church Buildings of Small and Medium Size
https://historicengland.org.uk/images-books/publications/fire-safety-for-traditional-church-buildings/fire-safety-traditional-church-buildings/

日本の文化財においても、芸術品を守るための外観を邪魔しない火災予防システム、また、火災が発生したときの消防設備の放水圧力や消火範囲、消火システムの仕組み、煙が発生したときの排煙システムや煙の流動装置を見直し、さらには、耐火壁・耐煙壁・耐水壁と排水設備も考える必要があるかもしれない。

特に過去の火災にもあったように、大規模改修中など、大勢の労働者などの工事関係者が入る時間帯と毎日の工事終了後は、たばこの不始末や電気工具の充電、工事配線作業後の通電状況など、ポイントを絞って火災予防を行ったり、さまざまな工事段階に応じた消防設備を常に使える状態にしておくことが重要になってくる。

また、重要文化財や世界遺産などの対象物は建物の消火だけではなく、消防のサルベージ隊(財産を守る隊)による、芸術的内容物の文化財の価値に応じた財産的なトリアージや絵画、ついたて、巻物、仏像などの運び出し想定訓練、現場におけるタグ付けと保護、盗難防止、搬送中の2次的損傷防止なども今後、検討する必要がある。

今回、数々のノートルダム大聖堂の火災映像を細かく見た中で感動したのは、活動を終え、または交代に向かう消防士たちに、沿道の観光客や住民たちが消防士に対する敬意と感謝、そして労いを表す拍手が惜しみなく送られているシーンである。

Incendie de Notre-Dame de Paris : les pompiers applaudis(出典:YouTube)

また、下記にいくつか参考になった、各国の重要文化財や世界遺産に対する詳細な管理計画の内容は、文化財の価値や構造、建物の目的や来客数、直近の公共交通機関や河川などの自然災害リスクなど、すべての影響を網羅した質の高いマニュアルである。

■Fire Risk Heritage
http://www.fireriskheritage.net

■2016 California Historical Building Code - California Office of Historic
http://ohp.parks.ca.gov/pages/1074/files/2016%20CA%20CHBC.pdf

■Flooding and Historic Buildings
https://historicengland.org.uk/images-books/publications/flooding-and-historic-buildings-2ednrev/heag017-flooding-and-historic-buildings/

ここまで、重要な人類の遺産に対する本気で守り続ける仕組みと実働体制の保持と向上は、日本も見習う必要があるのではないかと深く感じた。

重要文化財の火災防御や消防設備の見直し、消防活動全体について、講演希望の方は下記から、ご連絡ください。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp