2012/01/25
講演録
TIEMS Japan Chapter
国際的な視点での危機管理を、研究者と実務者が交流しながら推進していこうと、京都大学防災研究所の林春男教授らが、国際危機管理学会(本部ベルギー)の日本支部を立ち上げる。日常的に研究者と実務者が意見交換できるネットワークを築くとともに、年1回程度のカンファレンスを設け、危機管理に関する産学官のさまざまな交流を促す。ISO22320をはじめとする国際規格の研究や実践も視野に入れ、こうした規格に基づいたICTツールの開発などにも結び付けたい考えだ。
国際危機管理学会 TIEMS(The International Emergency Management Society)は米国ワシントンで 1993年に設立され、現在、ベルギーに事務局を置く国際的な独立した非営利の NGO 組織だ。本部会員は 50 カ国、500 人程度で構成し、研究者や産業界、管理者、医師、社会科学者、このほか危機管理や防災に関心がある人々による世界的なネットワークを築いている。危機管理や防災に関するさまざまなメソッドやテクノロジーの情報共有を図り、自然災害やテクノロジー災害からの回避や減災、対応力、復旧の能力を上げていくことを目的にしている。代表は、ノルウェー人のK.Harald Drager氏が努める。
その日本支部が今年5月に立ち上がる。中心となっているのは京都大学防災研究所の林春男教授、同研究所の牧紀男准教授、新潟大学の田村圭子教授、民間では日本ミクニヤの田中秀宣社長、元 NPO リアルタイム地震情報利用協議会専務理事の藤縄幸雄氏(現・藤縄地震研究所取締役会長)ら。林教授は「サプライチェーンがグローバルに展開している中で、国を超えた連携が求められている。社会をとりまくリスクは、従来の災害だけという考え方からテロや新型インフルエンザと多様化し、さらに海外で発生したはずの危機があっという間に国内にも被害を及ぼすなど国際的な視点での取り組みが不可欠になっている」と日本支部設立の意味を説明する。特に力を入れていきたいというのが研究者と行政や民間企業など実務者とのネットワークづくりだ。
「これまで行政は行政、民間は民間で危機管理に取り組んできたが、双方のプロフェッショナリズムを学者も加わってもっと伸ばしていくことが必要」と説く。
具体的な活動内容や、会員の募集方法などについては近く発表する。
TIEMS日本支部 設立シンポジウム
■テーマ 「国際社会に求められる世界的視点の危機管理」(仮)
~危機に強いレジリエントな社会を目指して~
■開催時期 2012年5月22日(火)~23日(水)
■開催場所 新宿区立四谷区民ホールおよび東京臨海広域防災公園
■5月22日 プログラム案
【設立記念シンポジウム】10:00-12:00 会場:新宿区立四谷区民ホール
・基調講演1
危機に強く、しなやかなアジアの実現
林 春男(TIEMS日本支部設立準備会代表、京都大学防災研究所教授)
・基調講演2
社会安全の世界標準化の動き ~ISO/TC223~
渡辺研司(名古屋工業大学大学院教授)
・特別挨拶
TIEMSの役割と活動内容 ~日本支部設立に寄せて~
K.Harald Drager(TIEMS会長)
【TIEMS Japan Chapter Conference】13:30 -17:00 会場:同上
~アジアにおけるレジリエンスの取り組み
(TIEMS Asian Chapterからの発信)~
・アジアの自然災害リスクの動向
・China Chapterにおける取り組みと課題
・SouthKorea Chapterにおける取り組みと課題
・India Chapterにおける取り組みと課題
・パネルディスカッション「アジアにおけるレジリエンスの向上」など
■5月23日 分科会(東京臨海広域防災公園)
詳細は、本誌、本誌ウェブサイト、メールマガジンなどでお知らせいたします。
Interview
林 春男
京都大学防災研究所 教授
(TIEMS日本支部設立準備会代表)
一国の危機が世界中に影響を与える
京都大学防災研究所教授で、TIEMS日本支部設立準備会代表の林春男氏に、TIEMS日本支部の活動ビジョンを聞いた。
Q、なぜ、今、国際的な視点で危機管理を考える必要があるのでしょうか?
きっかけは2001年に米国で発生した9.11だと認識しています。あの事件は非常に大きな時代の転換点でした。それまでの災害という概念とは大きく異なり、テロというものが、国に大きな危機をもたらすということを改めて認識させました。また、経済がグローバリゼーション化している中では、一国の危機が、その国内の問題として済まされずに、サプライチェーンを通じて瞬く間に世界中に大きな影響を与えることを世に知らしめました。
Q、ISOなど国際規格が持つ意味というものをどうお考えですか?
国が異なって、仕組みがまったく変わってしまえば、相互に状況認識を統一することができないし、それぞれの組織で対応手順が違えば、応援そのものが難しくなります。逆に基本的な認識、手順を共通にしておけば、それだけ対応もスムーズになることが期待できます。
企業間においても、標準的な規格にもとづいて取り組めばいいということになれば、プログラム開発などの手間や費用を軽減することができますし、他の組織と連携しやすくなるという意味でメリットはあります。
さらに、新興国など素性が分からない海外の企業と取引をする上でも、最低限の備えができているか証明させるという使い方があっていいと思います。
Q、国際危機管理学会ではどのような活動を展開されていく予定ですか?
個人的な考えではありますが、まず、実務者と研究者の交流の場を確立したい。そのために、さまざまなコミュニティの実務家(企業、公益事業体、行
政、教育)が集う場をつくって、国内外の危機管理の動向を学ぶ機会を作れたらいいと考えています。
その中で、ISO22320(危機対応)だとか、あるいはBCMSについても、実際にどう取り組めばいいのかを研究・実践して、それが1つの普及モデルとしてアウトプットしていけたら意味があるのではないかと考えています。
寄稿
TIEMS 日本支部 設立の経緯
危機管理の世界標準化へ
国際危機管理学会TIEMS(The International Emergency Management Society)日本支部の設立の背景について、発起人の1人である日本ミクニヤ株式会社代表取締役の田中秀宜氏に寄稿いただいた。
1世紀の社会的・自然環境的変化は、国内外問わず、私達の予期せぬ事象をもたらし、大きなインパクトを与え、被害を増大させています。火山活動の活発化・大地震の発生及びそれに伴う津波被害・新型インフルエンザの流行・テロ活動に対する緊張感など、国内の産官学民の連携した予防対策に限らず、国家を超えた地球観でその対策が求められております。
国際危機管理学会TIEMS日本支部(JapanChapter)の設立は、そのような国内外の危機管理分野における動向を鑑み、京都大学防災研究所 林春男教授の提唱により2010年10月に準備会を立ち上げて、現在まで約1年間調整を進めて参りました。そして、TIEMS本部理事会の承認をいただき、今年の5月22・23日に、東京にて日本支部設立総会及び記念シンポジウムを開催するに至りました。この誌面をお借りしてTIEMS日本支部設立までの活動経緯をご紹介させて頂きます。
まず、TIEMS(The International Emergency Management Society /会長 K.Harald Drager,Norway,2002-present)のご説明をさせていただきます。
TIEMS は、1993年に国際的な危機管理・エンジニアリングの集団として、米国ワシントンで設立され、現在、本部をベルギーのボルネムに設置し、国際的な独立した非営利のNGOとして登録されています。研究者や産業界、行政関係者、医療関係者、社会学者、そのほか危機管理や防災に関心がある人々による世界的なネットワークであり、現在、約50カ国500名の会員が登録されています。危機管理や防災に関する革新的なメソッド・テクノロジーの情報共有を図り、自然災害やテクノロジー災害のみならず様々なリスクに対して回避や減災を図り、対応力・復旧能力を向上させていくことをミッションとしております。2002年カナダのカンファレンスにおいて、ボードディレクターが、TIEMS を、より国際的な組織とするため、世界各国に支部(チャプター)を立ち上げることを決定し、”Think Globally but act Locally”活動が高まったことにより、世界各国でワークショップも開催されるようになりました。
さて、2010年6月9日、中国北京にてTIEMSの第 17 回年次総会(会場:Loongpalace International Hotel)が開催され、当時、NPO リアルタイム
地震情報利用協議会専務理事を務められていた藤縄幸雄先生(現(株)藤縄地震研究所取締役会長)と、リアルタイム地震情報に係る中国地震局の取り組みや中国での災害事情・防災産業の実情を把握することを目的に総会に参加しました。
今回の年次総会は、研究者の学術的な研究成果を中心とした学術的な内容は少なく、政府・自治体の危機管理の組織と任務/地域的災害最新情報/防災計画/震災時の緊急対応・救助・復興報告など行政活動が中心であり、特に、中国政府系の関係者が相当力を入れていました。総会の規模も大きく、メイン会場は 500 名程度の参加者で溢れ、併設で中国の GIS・災害シミュレーションソフト・救急救命/救助器具販売メーカーなどが展示会を行っていました。この年次総会の会場で、K.Harald Drager 会長及び理事の方々とミーティングを行う機会があり、「2014 年に日本で年次総会を開催したい。また、危機管理分野の世界標準化をこの学会で作りあげていきたい。そのために、TIEMS 日本支部を創設してもらいたい」という要望を受けました。
帰国後、「林教授が、現在、ISO/ TC223 の WG3に参画されていることから、林教授と藤縄先生の両名で、日本支部を設立し、国内外の危機管理分野の活動拠点にしていきたい」という意思確認が行われ、新潟大学災害復興科学センター 田村圭子教授、京都大学防災研究所 牧紀男准教授が参画されて、2010 年10月29日に設立準備会を立ち上げるに至りました。
その後、この準備会の会合結果を受けて、11月末TIEMS理事会において、2014年年次総会の日本開催が正式に承認され、現在までに4回の準備会会合を積み重ねてきております。当面の時限的活動としては、今年5月の設立総会に向けて会員の募集や行政・他学会との連携など日本支部の基盤作りを行い、2014年 TIEMS年次総会の日本開催誘致活動と新潟中越地震 10周年という節目の国内イベントをフィックスさせる活動を行っていく予定です。継続的な支部活動の方向性としましては、危機管理に関わる実務者と研究者の交流の場を形成し、国際的な枠組みで防災情報を含む危機管理の実践を推進することを趣旨とした拠点化を目指しています。
この TIEMS日本支部設立の準備が始まった2011年は、図らずも国内では、1月の新燃岳噴火に始まり、3.11東日本大震災、その後の福島原発事故などの複合災害、7月~9月に掛けての新潟・福島豪雨、台風 12 号による紀伊半島豪雨、台風 15号の関東直撃など多くの自然の猛威にさらされました。私達、人間が築き上げた社会の無力さを嘆くと共に、被災された方々に対しましては、心からお見
舞い申し上げる次第です。
自然災害に限らず、相変わらずの不安定な政局/超円高経済/ TPP などの外交圧力など、経済・社会的な混迷も続いています。国外に目を向けますと、民衆デモから始まった北アフリカ・中東では、独裁政権が崩壊し「アラブの春」を迎えています。北朝鮮の金正日総書記の死去は、北東アジアに不透明感をもたらしています。ギリシャ・イタリア・スペインなど南欧諸国の金融不安は、欧州連合(EU)全体の金融市場を混乱に陥れています。そして、タイの大洪水は、日本企業のサプライチェーンを再び寸断させる事態となりました。
2012年は、アメリカ・ロシア・中国・韓国などの大国でトップの交代が行われます。これは、世界的な経済・外交政策の混乱や停滞を招く恐れがあります。そして、自然災害は、地球全体の許容量を超えて、規模を益々増大させ、多発化してきています。これら社会的・自然的な現象への対策は、世界規模で、相互に絡み合い、連鎖しながら物事が進んでいく構図が強まっていると言えます。
IEMS日本支部の設立は、このような背景の中で、必然的な意味を持つものであると強く意識し、推進していきたいと考えております。是非、ご賛同頂ける方の参画をお待ちしております。
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