2016/08/26
業種別BCPのあり方
①学内リソースの差異
C大学の施設担当職員は60人おり、応急危険度判定の有資格者が5人いた。工学部の建築学系教員の有資格者や、近隣の国立大学の施設職員も動員して、建屋の応急危険度判定を自ら行ったことを記録集上で明らかにしている。D大学にも工学部があるが、記録集上にはこのような記述は見られない。C大学は、大気中の放射線量測定も自ら行っている。同じ大学といっても、組織内のリソースによって、取組み可能な範囲や項目は異なる。自組織にあわせた対応を考えることが重要である。
②事前準備の徹底度の差異
両大学とも安否確認システムを学生にも提供しているにもかかわらず、3月17日時点における安否確認の進捗には差が出ている。D大学では、公式記録集上、「登録者が全学生の約2割にとどまっていたこと、また中にはメールアドレスを変更していたり、保護者のアドレスを入力していなかった学生などもいたことから、機能を十分に発揮することができなかった」との反省を示している。C大学では、学生にポケット版マニュアルを配布するなどの取り組みをあわせて行っていたため、導入開始後に入学した1年次の学生はほぼ100%安否確認システムで確認が取れた学部が出るなど、効果が発揮されている。
大学の事業継続を困難にする要因
これまで4つの大学の初動対応を紹介してきたが、これらの事例からは、各大学で共通して事業継続を困難にする要因がいくつか見出せる。順次紹介しよう。
①地域社会からの期待
学校・文教施設は、地域社会から災害時に避難所としての機能を果たすことを期待されており、実際これまでもそのように運用されている。しかし、これは大学の事業継続という観点からは、難しい問題になりうる。つまり、法令上は自治体の責任において行われることになっている避難所の運営が、発災後には自治体の能力を超えているとして大学が運営するものとして取り扱われたために、本来大学の緊急時対応に従事すべき教職員が避難所運営に忙殺され、大学としての対応に支障が生じることが多かったのである。
東京都内の公設避難所2846カ所のうち、23カ所が大学である。ちなみに、約2000カ所の避難所が小中学校、約120カ所が高等学校であり、同じ問題が生じる。この問題については、教育界からは何度か指摘が行われているものの、現状、解決困難な課題である。
②学生の状況把握と支援の困難
学生なくして大学の事業は成立しえず、また保護者と離れて生活する学生も多い以上、大学としては学生の安否確認に取り組むことが必要になる。この作業は、膨大な数の学生と連絡をとり、状況を把握することであり、非常に大きな事務労力を要する。また、生活基盤を喪失した学生には適切な支援が必要であるが、このことについて具体的な検討を行っている事例はまだまだ少ない。
加えて、大学によっては、留学生が多数在籍していることもあり、緊急時に不慣れな留学生への生活サポートはそれだけで大きな課題となる。
なお、東日本大震災では、在京の各国公館が緊急帰国を推奨した際に生じた、入国管理局との再入国許可申請関連の調整については、2012年のみなし再入国制度の導入により、一定の立法的解決が図られた。
③スケジュール調整の困難
筆者が学生の頃は、授業が休講になればそのままで済まされていたが、今は大学がその分の補修を行わなければならない。もともと、我が国の大学制度上、1単位あたりの習得には、45時間の学修時間(授業、予習、復習を足した時間)を要するものとされており、単位の認定を行うためには、講義を必要な時間分行わなければならない。
東日本大震災の際にも「平成23年度当初の授業期間について、大学設置基準に定める学習時間を確保する方策を大学が講じていることを前提に、弾力的に取り扱っても構わない」旨、文部科学省が通知を発しているが、つまり、学習時間を確保する方策を別途取らない限り、授業期間は弾力的に取り扱うことが許されない性質のものになっている。
入学試験も同様である。毎年5月ごろに翌年の入試については、「大学入学者選抜実施要項」として文部科学省から通知が発出される。このなかで試験期日、合格者の決定発表などのスケジュールは細かく定められており、大学として遵守が必要である。
東日本大震災の際にも「被災などの影響による場合には、各期日を超過して期日を設定することは差し支えない」旨、文部科学省が通知を発しているが、逆に言えば、この通知がない場合、各期日を超過するスケジュール設定は許容されないことになる。
④附属病院と図書館には独自の対応計画が必要
附属病院と図書館には、緊急時にそれぞれ膨大な作業量が発生するため、独自の対応計画が必要である。附属病院は、緊急時には多数の傷病者が運び込まれることが多く、これらへの対応は、附属病院任せにするのではなく、大学法人としても、必要な設備投資などを通じて関与していく必要がある。
また、図書館は、特に水害、地震の場合には、蔵書に深刻な被害が生じるため、大至急の対応が必要になる。単に人手を集めればよいというものではない。汚損図書は清掃が必要になるし、破損図書は修理しなければならない。
専門的な技術を持っている司書職員であても、1人日あたり10冊~20冊程度の対応が精いっぱいとの報告がある(衛藤ら「大災害時における地域の公共図書館の役割とその支援体制」、千葉科学大学紀要5巻2012年)があることを考えると、これは平時からの準備が必要になる。
次回は、大学特有の事業継続に有利な要因を検討したうえで、どのように事業継続を図るかを考えていく。
※編集部注:本稿では兵庫県南部地震は阪神淡路大震災を、・東北地方太平洋地震は東日本大震災を、それぞれ引き起こした地震を指します。
(了)
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