第1回 何を知る必要があるのか?
秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
2016/05/10
COP徹底解説~危機管理を自動化せよ!~
秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
危機発生時の状況認識を統一するためのツールであるCOP(Common Operational Picture)。このCOPの目的は「複数メンバーのあいだで、状況認識を同じレベルにすること」であると考えられていたが、COPの作成過程をより詳細化した結果、危機への自動対応が可能であることがわかった。本稿では、COP作成による危機対応自動化の仕組みを作る方法論を、6回シリーズで解説していく。第1回目の本項では、危機発生時における組織の情報要求を明らかにする。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年3月25日号(Vol.48)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月10日)
危機管理は自動化できる
仮に読者の皆様が「未来に発生する規模も被災レベルもわからない災害への対応が自動化できる」という主張を聞いたとしたら、どう感じるであろうか?
おそらく心のなかで笑うか無視を決め込むのではないかと推察する。しかしこれは嘘でも冗談でもない。未来に対応するためは、未来を知る必要もなければ根拠薄弱な想定をする必要もなく、適切なCOPを策定すれば可能となる。
トップは何を知りたいか?
東日本大地震が起こった時、しきりと想定外という言葉が用いられた。私に言わせれば、そもそも想定などするから想定外が起こるのであって、組織存続の責任を負う者は、根拠薄弱な「想定」に立脚した危機管理手法を採用してはならない。
ならば、組織存続とミッション遂行の責任を果たすために組織のトップは何をしなければならないのか?
ここで思考実験をしてみよう。
図1は、一般的に言われている、災害発生時における組織トップの心配事である。もう一歩踏み込んで言うならば、昨今の危機管理マーケットにおける多くの危機管理情報システムが根拠としている情報要求でもある。
一般的に組織トップは、従業員の労働環境の安全に配慮する義務がある。また一方では、大災害などが起こった場合に「あの人はだいじょうぶか?」と心配になるのは人間の情というものである。これらの要求から、いわゆる安否確認システムが考案されて多くの利用者を集めている。
また、災害発生時には被害の情報を集めることが重要であると言われている。確かに被害状況がわからなければ何に対応すれば良いかが判断できないので、これを迅速に集めることが重要であることには間違いない。
さて、それでは考えてみよう。この2つをもって、災害時における組織トップの情報要求と言い切ってよいのであろうか?
トップは何を知るべきか?
仮に、安否確認システムの収集結果を見て、組織トップに次のような報告が上がったとする。
製造部の社員30人のうち、家庭で重傷を負った者が1名、軽傷者COPを作る作業③情勢判断が3名出ました。また自宅の被災で12人が出社できないと報告しています。 |
組織の責任者であれば、この報告に接して、次のように反応するであろう。
①重傷者にどのような支援が可能か検討せよ。 ②出社可能な社員だけで明日からの生産がどれだけ稼働するか報告せよ。 ③この状況でお客様への納期は守れるのか確認せよ。 |
①重傷者への支援
筆者はBCPコンサルタントとして多くの企業の危機管理マニュアルを策定してきたが、労災や会社での被災は別として、従業員の家庭での負傷や家の被災に対して、会社の支援策が決まっていたことはほとんどない。知ったところで被災直後に組織ができることはないというのが実情だからである(後日の金融的支援を規定していた会社はある)。
つまり、被災直後の情報要求において「安否」の優先順位は高くない。従業員の家庭での被災を救援する策を作っているのであれば安否情報は役に立つであろうが、知ったところで何もしないのであれば、その情報は今の今、必要ではないだろう。
念のため書きおくが、人間の情として心配であるというヒューマニティは理解できる。それを災害発生時の情報要求に組み込むかどうかは組織の判断である。
②明日の生産の稼働
多くの場合、被害の情報だけでは、明日の業務の稼働レベルは判断できない。30人の部署で15人が被災したというケースでは、明日の稼働レベルは50%ですと言いたくなるが、同じ欠勤率であっても業務の内容によって稼働レベルは大きくことなる。
例えば、法定の資格者がいなければ実施できない業務であれば、資格者が1人欠けただけで29人が何もできなくなるケースもありうる。業務の稼働レベルを知るためには、被害情報だけでなく、事前に稼働レベルの定義をしておかなければ、組織トップの情報要求は満たせない。
③納期
組織トップのもっとも強い関心は、組織のミッションへの影響であると言い切っても間違いではあるまい。自社の被害がお客様にどのような迷惑をかけるのか、真っ先に心配するはずである。
つまり、この項においても被害情報だけでは組織トップの情報要求は満たせない。被害が起こった結果、組織のミッションにどのような影響があるのか?を見極めて伝える必要がある。
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