2016/07/08
業種別BCPのあり方
事業継続戦略・対策の検討と決定
職員が出勤できず、執務環境に一定の制限がかかる場合にも目標復旧期間内に業務を実施するための戦略と対策を検討する。執務環境への制限は様々なものが考えうるが、代表的なものの一例を表3に示す。
戦略や対策を検討した結果、目標復旧期間や目標復旧レベルを達成することが困難なことが分かる場合もあるだろう。この場合、住民生活や行政執務に影響が出ることを把握した上で、時間やレベルは現実的な数値で再設定するべきである。計画上の記述を調整して糊塗すると、課題が埋没する結果となるためである。今後改善が可能であれば、「課題一覧表」などの形で今後の取り組み課題として引き継ぐ必要がある。
表3に示した対応は当該自治体単独で行う対策であるが、東日本大震災では、被災市町村ごとに支援担当市町村を設定する枠組みが作られたことを考えると、近隣や遠隔地の自治体との相互援助協定等により資源確保を図る方法も積極的に活用されていくことが望ましい。
計画の文書化
計画の文書化に当たっては、全庁を対象としたBCPのほか、読み手に合わせて、情報量を調整した文書を策定することを勧める。短く、わかりやすく、かつ記述は具体的にするのが文書化のポイントである。
具体的な例を示すと、一般職員向けには、緊急時安否確認・非常呼集マニュアルを策定し、安否報告と非常呼集に関する情報を最低限確認させる一方、管理職向けとして、部局別BCPを策定し、各部局の初動から応急までの対応をより細かく決めておくなどの対応が効果的である。
また、文書化の後は、BCPを職員教育や定期的な訓練を通じて、周知徹底することと、内容を定期的に見直しすることが欠かせない。
自治体では階層別教育などが普段から行われていることもあり、職員研修プログラムに組みこむことが望ましい。新入職員、新任主任級、新任課長補佐級、新任課長級など階層ごとに必要な知識は異なる。外部機関に教育を委託する事例も決して少なくない。
さらに、策定されたBCPは、時間の経過とともに劣化する。仕事のやり方の変更、人事異動、組織改変、様々な組織の揺らぎがBCPの有効性をそぐ。そのため、BCPには定期的な見直しが欠かせない。人事異動なども考えると、少なくとも1年に1回は内容の見直しが必要と思われる。
大阪府箕面市の事例
最近、自治体関係者には大阪府箕面市の事例に触れることを強くお勧めしている。箕面市の策定したBCP自体が先進的なものである上、「災害時における特別対応に関する条例」を制定し、市長の災害時の権限を明確にしているからである。
箕面市災害時特別宣言条例とも呼ばれるこの条例は、市長が特別宣言を発した場合、通常業務の一斉休止、施設等の一斉休館、許可などの取り消し、契約や処分の期限延長、仮庁舎への移転など本来条例上の対応が必要になるような諸項目について、一括対応ができるようにした。これは、類例がない画期的な対応である。
加えて、この条例では、独居の高齢者などの災害時要配慮者の名簿を平時から準備し、地域の避難所に封印保管できるようにしている。災害発生時には、地域住民が組織する「地区防災委員会」の判断で名簿を開封し、自治会などと協力して、迅速に安否確認を開始することができる。
一つひとつの工夫は先例があるとしても、これらをパッケージとして条例化したことは、極めて先進的な対応として高く評価できる。情報システムの重要性 近年自治体においても情報システムの重要性は高まる一方である。住民基本台帳システムや課税台帳システムなどのデータは、昨年の災害対策基本法改正により新たに自治体の業務とされた「被災者台帳の作成」に当たっても欠かせないものになっている。
自治体がBCPを策定するに当たっては、総務省の「災害に強い電子自治体に関する研究会」報告書等を参考にしつつ、ICT部門が防災部局と連携して、BCPを策定することを勧める。
岐阜県では県下の市町村が使用しているシステムは可能な限り共通化されている。財団法人岐阜県市町村行政情報センターが一括受託して開発しているからである。今から新規にこのような制度を新設するのは現実的ではないが、他の自治体との連携に当たっては、同一の情報システムベンダーのユーザーである自治体同士で相互支援の枠組みを構築するなどの対応が検討されても良いと考える。
おわりに
自治体の事業継続の成否は、当該自治体の住民の生活や、事業者の事業継続にも大きく影響する。今後一つでも多くの自治体がBCPの策定に取り組むことを願ってやまない。
(了)
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