はじめに

東日本大震災の教訓を受けて、自治体においても何らかの事象により経営資源が大きく損なわれる事態を想定し、平常時に行っている業務を可能な限り絞り込んで継続しつつ、初動や応急対応に最大限の経営資源を集中するための計画を策定しておくことが強く求められている。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年5月25日号(Vol.42)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月8日)

この計画が事業継続計画(BCP)であり、計画策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、事前対策の実施、取り組みを浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメントを事業継続マネジメント(BCM)という。

自治体における事業継続計画策定のプロセス

内閣府「事業継続ガイドライン(第三版)」は、BCP策定までの手順として、方針の策定、分析・検討、事業継続戦略・対策の検討と決定、計画の策定といったプロセスを挙げている(表1)。このプロセスは、自治体においても共通であるが、組織の特性上の注意点もある。本稿では、この項目に沿って、標準的な策定手法を解説し、先進事例を紹介する。

基本方針の策定 

災害対策基本法5条は「当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務」を市町村の責務と定める。

災害救助法は「被災者への生活支援」の実施主体を市町村としている。市町村における災害対策においては「生命及び財産の保護」「被災者への生活支援」とは欠かすことができない基本方針となる。 これに加えて、別の方針を掲げる東京都区部の事例を表2に示す。

表2の中で下線部を付した部分が、方針策定に当たって注目するべきポイントである。港区は、「優先度の低い通常業務は積極的に休止・抑制します」とする方針を明確にしている。

北区や葛飾区は、区役所以外との連携を方針に加えている。地域との連携が大きなテーマになっている防災行政の現状を考えると、これらは参考となる。

実施体制の構築では担当者の設置が必要

BCPの策定やBCMの実施に向けた体制の構築に当たっては、全部局に担当者を設置することが重要である。防災部局だけでBCP策定の検討を行っても、各部局が抱える業務の詳細は分からず、策定は困難である。また、防災部局が頑張るほど「BCPは防災部局の所管」という意識を醸成する。

しかし、どこの自治体でも災害に伴い全庁体制が指示されれば、全職員が非常参集し、対応に当たることになる。災害への備えは防災担当部局だけではなく、すべての部局の問題であることを理解させるうえで最も有効なのは、担当責任者を設置することである。 

京都市では、各局の庶務担当部長に消防局防災危機管理室担当部長の併任辞令を発令し、全部局の関与を担保している。すべての部局の関与を確保するための取り組みとして参考になろう。