セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
私たちの周りのセキュリティ「モノ」(4)液体物検査装置
日本発のすぐれもの、1~2秒で判別
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
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8月の連載から私たちの周りにあるセキュリティ「モノ」についてお話をしています。今月は液体物検査装置について説明します。
液体物検査装置ってどんなモノ?
液体物検査装置は、ペットボトルやアルミ缶の中身が可燃性か否かを確認するための機器です。扱い方は極めてシンプル、容器を装置の上に置くだけで準備OK、そしてチェック完了です。最近では変わった形のペットボトルやビンなどに入った内容物も確認できるようになりました。容器のふたを開ける必要はなく、預かってから数秒(検査時間は1~2秒)で安全な液体かどうかを判別できるこの日本発の「モノ」は、我が国が誇るセキュリティ資機材のひとつといえるでしょう。
日本では2004年11月より空港への導入が始まりました。国内線の場合は、液体物検査装置のチェックを受けて問題なければ機内に持ち込むことが可能です。飲み物ではない化粧水や乳液なども通常使用の範囲量であれば特に厳しい持ち込み制限はかかりません。
一方、国際線ではテロ対策の観点から、液体物の持ち込みが厳しく制限されています。ペットボトルはもちろん、日用品として使用する液体も制限の対象です。2006年8月9日にイギリスからアメリカへ向かう旅客機でアルカイダ系グループに属する24名のテロリストたちが機内に持ち込んだ液体物を混ぜて爆弾を作り、最大10機を飛行中に爆破しようとしました。未遂だったとはいえ、この事件の影響は世界中におよび、液体物の持ち込みが各空港で厳しく制限されるようになりました。航空保安における液体物の概念には、飲み物だけではなく、調味料や生活用品をはじめ、ジェル状のものや半液体状のものも含まれるため、歯磨き粉やプリンなども制限品の対象となります。さらに、液体はすべて100ミリリットル以下の容器に詰め替え、1リットル以下のジッパー付き透明袋にまとめて入れなければ機内に持ち込めなくなりました。
国内では、2016年6月30日に新幹線内に男がガソリンを持ち込み、自身でかぶり火をつけたという事案がありました。これは男による焼身自殺でしたが、新幹線の車内に簡単に可燃性液体を持ち込むことができ、ライターがあれば容易にテロも実行できるということを証明しました。ガソリンは無色透明、ペットボトルに入っていれば通常は「水」と思い、疑われることなく持ち込めますからね。
また、一時期は「混ぜるな危険」の液体を混ぜた自殺が流行しました。ホームセンター等で売られている液体を使えば自殺ができる、裏を返せば、人を殺害することができるということになります。爆弾を作るための技術や知識、入手困難な火薬や雷管といった材料は必要なく、近くのホームセンターで購入できる液体同士を換気にさえ気を付けて混ぜていくだけです。生成した液体を水筒やペットボトルに入れておけば、誰にとがめられることなく目的地まで運ぶことができるでしょう。危険な液体を飛行機内には絶対に持ち込ませないために、液体物の持ち込み量制限や持ち込む場合の検査が空港では実施されているのです。
液体物検査装置の設置前は・・・
ところで、今日、日本の空港には液体物検査装置が導入され、液体が可燃性か否かの確認が容易になりましたが、以前はどのようなチェックが行われていたのかご存知ですか?液体物はノーチェックだったわけではなく、しっかりと保安検査場で検査が行われていました。ふたが開いていなければ、基本そのまま持ち込めましたが、開いている場合はペットボトルの本体は検査員が持ち、ふたを旅客の方に向けて旅客自身で開けてもらい、検査員はペットボトルを鼻に近づけて片方の手であおいで中身のにおいをかいでいました。お茶や水ならほぼ無臭、ガソリンやその他の場合はにおいでわかるという検査員自身が検査装置の役割をしていました。初めてこの検査方法を知った時、私の衝撃は相当なモノでした。万が一の場合大変なことになります。その万が一がガソリンなら「うっ!」と咳こむだけですが、サリンだったら死んでしまいますよ!!
「ペットボトルに入れてきたものがサリンだったら、自分も死んじゃいますからね、その場合ふたは開けないでしょう。だから現場の運用では、旅客自身でふたを開けてもらうようにしているのです」と言われたことがあります。すでに欧米では自爆テロの脅威が議論されている状況でしたから、「旅客が自分でふたを開けるはずがない」という考えには驚きました。
そのときに「日本では、保安検査員は使い捨てなのか」と感じてしまいました。液体物検査装置が導入され、保安検査員が手であおいで直接内容物のにおいをかぐことはなくなるまでの間、液体物の持ち込みによるテロが日本の空港や飛行機内で発生しなかったことは、保安検査員が命を懸けて旅客の安全を守っていた結果なのですよね。
レガシーとして
2020年、日本で開催されるスポーツの国際イベントでは液体物の検査をどのように実施するのでしょうか?日本の夏は非常に暑いですから、水分補給のためにペットボトルや水筒など持ってくる人が多いはずです。セキュリティの観点から液体物の持ち込みを全面禁止にすることは簡単ですが、炎天下に屋外で長い列に並ぶことになると熱中症などの危険もあり、全面禁止は現実的ではありません。
そこで登場するのが、「Made in Japan」の液体物検査装置、ぜひ設置してほしいと思います。海外ではあまり見かけないコンパクトさ、さらに高性能の日本の装置を世界中から訪れる人々に見せびらかしたい、そんな気持ちになっています。簡単で使いやすく、検査に時間がかからない、登場したときからセキュリティのスマート化のために必要な製品だと思っています。2020年以降、世界の国々ではセキュリティ対策のひとつとして、日本発の液体物検査装置が導入される、そんなレガシーもまた作っていきたいものです。
(了)
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