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2030年の最悪シナリオ下では、建設現場は一層過酷に。積極的に対策を講じない建設、土木会社は生き残ることが困難になる。

現場作業で高まる危険性

この業種で第一に考えられるのは作業員の健康と安全面への影響だ。一つは「熱中症リスクの増加」である。厚生労働省の2013から2022年までの累計によると、職場で熱中症になった人数が最も多いのは、建設業で1571人であった。しかし、果たしてこの数字には、下請けや孫請けといった中小零細企業や意思疎通の難しい外国人労働者のケースは含まれているのだろうか? 

多くの地域で夏場の猛暑日が40℃を超える2030年、現場作業員の体調管理や安全対策には更なる負担がかかる。高温環境下での作業は体温調節が難しく、めまいや吐き気などの症状、そして熱中症や脱水症状が現れやすくなる。緊急の医療対応が必要なケースも増加するだろう。著しい高温下では作業中の事故の発生率も増加する。作業員の集中力低下や疲労は現場での安全意識を減衰させ、誤った判断や不注意が原因となり事故が増えていく。

一方、突然のゲリラ豪雨や突風、竜巻、落雷なども頻発するようになる。これによって作業員の身動きがとれなくなったり、建設や解体現場の足場が吹き飛ばされたり倒壊したりする。クレーンで吊った資材が揺さぶられて落下するといった想定外の事故も多発し、作業員の安全が脅かされることになる。

建設・土木業界はこれらのリスクに対処するために、適切な安全管理策や作業環境の整備が求められる。大手建設会社などは、気候変動が引き起こす人的・物的リスク対応を今よりもさらに積極的かつ入念に推進するに違いない。

しかし、中小零細の下請け企業はどうだろうか。管理者や監督者の不足や予算不足から、現場作業員の熱中症対策や悪天候対策を見据えた作業時間の調整や十分な休憩の確保ができなければ、犠牲者が増えていくことになる。苛酷な労働環境下での作業を敬遠する人が増え、人手不足にも拍車がかかるのは必至だ。

上昇する工事原価

安全性は確保できるのか(Adobe Stock)

工期中に人的被害や事故が一度ならず発生すれば、工事自体の進行にブレーキがかかることは言うまでもない。突発的なインシデントによって工事の進行が阻害され、プロジェクトの微調整を強いられるだけならまだよいが、結果として甚大な人的・物的被害が発生すれば、代替作業員の確保や、被災した作業現場の復旧に多くの時間がかかり、契約した工期を大幅に遅らせることになる。

このため、建設プロジェクトを主導する親会社から末端の下請会社に至るまで、今以上に入念な安全対策と防災、BCP対策の徹底が不可欠となる。結果として、工期の遅れとこれらの対策費用、よりシビアな気候に適用する工事保険なども値上がりし、工事原価を押し上げることになる。

一方、こうした人的・物理的影響を受けなくても、グローバル・サプライチェーンでの気候リスクがコスト増につながる可能性も視野に入れる必要がある。例えば、資材原産国での災害発生(水害・熱波)による建設材料の不足は、現在でも建設プロジェクトにおける大きな課題となっている。

異常気象が資材の生産地で頻発すると、大規模な森林の冠水や干ばつによる樹木の立ち枯れや山火事が起こり、その結果輸入資材の供給が安定せず、価格が急騰する。これは、とくに住宅建設プロジェクトの計画段階での予測が難しくなり、引いては住宅供給を不安定かつ高価格なものにする要因となるだろう。