自動車産業はEVへ転換できるか(Adobe Stock)

2030年の最悪シナリオにおいて、気候変動が自動車業界に与えるダメージは想像に難くない。多種多様な部品・組み立て工場、あるいは部品リサイクル工場が物理的な損害を受け、サプライチェーンの断続的な中断も日常茶飯事となるだろう。

EVへ転換できるのか

豪雨や台風は従業員の出社を阻み、生産拠点や物流網に甚大な被害を与え、部品供給や完成車の輸送に支障をきたす。さらに海面上昇による港湾施設(物流倉庫など)の高潮や浸水被害も、生産に直接的、間接的な影響を与える。夏場の猛烈な暑さもまた、工場従業員や輸送に従事するトラックドライバーの体調不良を引き起こし、生産性の低下や納期の遅延が生じる。多くの工場で関連企業からの突発的な供給停止や部品調達の遅れなどを織り込んだ余裕ある生産計画と在庫管理が必要となるだろう。

ところで2030年、自動車業界はどのように変わっているだろうか。現状から察するに、世界の自動車メーカーは、生産の軌道修正を加えながらもEVへの全面シフトを急いでいるように見受けられる。本連載の第一部では、このような状況を楽観視し、EVの価格が高いことや航続距離の短さや充電時間の長さの問題は、いずれ解決に向かうだろうと書いた。

しかし、これは現在の情勢をそのまま未来に延長した意見に過ぎないことも確かだ。はたして自動車市場は、EVが国の補助金なしでも購入できるような手ごろな価格に落ち着き、諸々の技術的問題も段階的に改善され、いつどこでも短時間で充電できるインフラが広く普及するまで、辛抱強く待ってくれるだろうか。

2030年にこの業界のEV普及を阻む最悪のシナリオがあるとすれば、どのような要因が考えられるだろうか。