中国で、主に高度1000メートルまでの低空域を利用したビジネス「低空経済」が注目を集めている。ドローンによるデリバリーサービスが始まっているほか、「空飛ぶクルマ」の量産化に向けた取り組みも加速している。
 李強首相は3月の全国人民代表大会(国会)で公表した政府活動報告で、低空経済を「新たな成長エンジン」に位置付けた。報道によると、当局は低空経済の市場規模が2035年に3兆5000億元(約75兆円)に達すると見込む。
 ◇ドローンがお届け
 ハイテク企業が集まり、「中国のシリコンバレー」と呼ばれる広東省深セン市。箱を抱えて空高く飛んでいくのは、出前アプリ大手・美団の配送用ドローンだ。アプリで料理や日用品を注文すると、ドローンが近くの受け取りボックスまで届けてくれる仕組みだ。
 同市竜華区にあるドローンの離着陸拠点を訪れると、飲食店で飲み物を受け取った美団のスタッフがやって来た。注文品を専用の箱に入れるなどして、ドローンにセット。箱が落下しないよう確認作業を終えると、ドローンはあっという間に飛び去った。
 案内役の美団従業員は「鳥や風船などと遭遇した場合、自動的に回避するようになっている」と、安全性に胸を張る。ドローンは受け取りボックスの上部に付けられたQRコードのような「マークポイント」を認識して着陸。決められたルートを飛ぶため、人が操縦する必要はない。渋滞とも無縁だ。この拠点にはドローン十数機が配備され、周囲5キロ圏内をカバー。雨や雪の降る中や夜間でも飛行可能という。
 美団は深セン市内に十数カ所の離着陸拠点と約40カ所の受け取りボックスを設置しているほか、北京市や上海市などでもサービスを展開。21年から今年9月までに約36万回の配送を行った。
 ◇26年の納入目指す
 空飛ぶクルマの開発も進む。広東省広州市の新興電気自動車(EV)メーカー・小鵬汽車の傘下で、空飛ぶクルマを手掛ける広東匯天航空航天科技(小鵬匯天)は昨年、初の量産型モデル「陸地航母」を発表した。
 陸地航母は2人乗りの飛行ユニットを地上走行用の車両から分離して飛ばす方式で、離陸地点まで飛行ユニットを一体として運べるのが特長。レジャーのほか、災害救助などの公共サービスでの活用も想定している。
 量産に向け、今年10月に飛行ユニット工場の建設に着手。年産能力は1万台で、26年中の納入を目指す。価格は200万元(約4300万円)以内に抑える方針で、商用運航に必要な「型式証明」の取得を急いでいる。
 小鵬匯天のブランド責任者、陳萍さんは「24年は『低空経済の商業化元年』だ」と説明。各省や市レベルで支援策が打ち出されているといい、「中国全土でこの新産業の発展を支えている」と強調した。 
〔写真説明〕離着陸拠点から飛び立つ中国出前アプリ大手・美団のドローン=12月、広東省深セン市
〔写真説明〕受け取りボックスに注文品を届ける中国出前アプリ大手・美団のドローン=12月、広東省深セン市

(ニュース提供元:時事通信社)