北海道・知床半島沖で2022年4月に起きた観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故で、釧路地検は業務上過失致死罪で、運航会社社長の桂田精一容疑者(61)を起訴した。今後開かれる公判では、運航管理者にもかかわらず「素人」を自認していた桂田容疑者が、悪天候による事故を予見できたかが争点となりそうだ。
 運輸安全委員会の報告書によると、桂田容疑者は21年3月、自らを安全統括管理者兼運航管理者に選任。ただ、船に関する知識や経験はなく、運輸安全委の調査に対し「運航は船長の判断に任せておけばよいと思った」と主張した。
 一方、第1管区海上保安本部は、悪天候では出航を中止するという運航基準や、運航管理者の責務に関する安全管理規定を、同社が定めていた点を重視。ある捜査関係者は、他の観光船が出航を控えた点を踏まえ、「悪天候になることは明らかで、素人でも予想できた」と強調する。
 運輸安全委は、船首甲板部のハッチのふたが確実に閉まらない不具合が沈没の直接的な原因と認定し、1管も模型を使った再現実験を繰り返してハッチからの浸水と断定した。ただ、この不具合を見逃した過失は桂田容疑者の起訴内容には含まれていない。
 業過事件に詳しい元検事の高井康行弁護士は「ハッチから水が入ったことが沈没の原因だが、過失の成立には、そこまで具体的に予見できる必要はない。何らかの原因で船内に水が入って沈没する可能性があることが予見できれば十分だ」と指摘。元海保幹部の遠山純司・日本水難救済会理事長は「会社に安全管理体制が全く存在しなかった点を裁判官がどう考えるかだ」と話している。
 事故を受け、国土交通省は安全統括管理者や運航管理者の資質向上のため、関係法令や海事知識を問う試験を実施し、2年ごとの講習を義務付ける方針を示している。 

(ニュース提供元:時事通信社)