河本氏はソフトターゲット警備と官民一体となったテロ対策について語った

東京2020大会の安全対策は、大会関連施設の安全確保だけではなく、ソフトターゲットの警備やテロ発生時の対処能力の向上も忘れてはいけません。2012年のロンドン大会は約220の国と地域で36億人が中継放送を見ました。これだけの注目を集める大会でテロが起これば、世界的なインパクトが大変大きい。もちろんテロの未然防止には万全を期さなければいけませんが、発生もありうると考えるべきでしょう。発生を前提に対処能力を向上させて被害を最小限にとどめ、テロリストの狙った効果を出させないという視点も大事です。

テロ防止の基本はどんな脅威と脆弱性があるかの評価から始まります。これは一企業単位ではではなかなかできるものではありません。警察とも連携して脅威を評価し、それにもとづいたセキュリティレベルを設定し、それを維持できるかどうか、そのためにはどうすべきかを考えていく必要があります。

脅威は常に変わっていくものです。最近では車で群衆に突っ込むといった手口が多発していますが、車止めを用意するといった変化への対処が必要となります。何か対策を行ったら、その結果について検証し、また次の行動に生かすためにPDCAを回しましょう。テロリストは私たちが想像しないような方法で攻撃をしかけてきます。それに全方位で守るということは難しいです。何か起こった時は救護などを行うことで被害拡大を防止し、最小化を行います。そのためには平素の準備は大事です。

2008年に北海道洞爺湖サミットが開催されました。この年にできたのが「テロ対策東京パートナーシップ」です。警視庁を中心に官民59機関が参加しています。ここでは(1)合同訓練(2)合同パトロール・キャンペーン(3)検討会・研修会等(4)テロ情報ネットワークの構築(5)非常時映像伝送システムの構築(6)テロ対策相互協定の締結-の6つに取り組んでいます。このパートナーシップでの取り組みを通じ、大規模施設の安全マニュアルのほか、中小企業のためのテロ対策マニュアルも作成しました。中小企業で共通したもののほか、事業別に注意すべき点もまとめています。

東京駅においてもパートナーシップを組織しています。東京駅はJR東日本・東海に東京メトロと駅長が3人いて、地下街や大きな商業ビルも多い。災害対策では連携の仕組みができていましたが、テロ対策についてはまだ決して十分ではありませんでした。そこで、警視庁が中心となり、東京駅を協力して守るよう様々な分野の事業者が取り組んでいます。複合テロ想定訓練として、警視庁の担当者も交えて研修や図上演習も行われました。テロ対策はこのように関係者全員一丸となって行うべきもので、ほかのターミナル駅にとっても大いに参考になると思います。

(了)