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■経営資源とライフラインへの影響

気候変動による2030年最悪のシナリオを描くこの連載。今回は、「物理的リスク」である異常気象による企業への影響について説明する。「物理的リスク」とは主に自然災害(台風豪雨・熱波・干ばつ・渇水・海面上昇など)のことを指す。2030年の異常気象がもたらすであろう物理的リスクは、どのような形で顕在化するだろうか。

まずは経営資源としての人材への影響が大きい。特に深刻なのが熱波だ。日本では災害と見なされていないようだが、今や大地震にも匹敵する正真正銘のカタストロフィックな気候災害である。夏場には40℃を超える高温多湿の状態が何週間も続き、従業員、特に屋外で働く労働者に深刻な影響をもたらす。熱中症や脱水症にかかりやすくなり、生産性の低下や欠勤者の増加を招く。

一方、大雨による浸水や冠水は交通インフラを混乱させ、従業員の通勤を困難にし、従業員の生産性が低下して業務コストが増加する。

次に、ライフライン(電気・ガス・水道)への影響がある。異常気象による暴風雨や洪水は送電塔、電線、変電所、水処理施設に損害を与え、サービスの中断につながる。異常気象によって、これら資源のコンスタントな供給サイクルを混乱させる可能性があるため、企業はエネルギーと水の調達コストの増加に直面する可能性が高い。

ITをはじめとする事業資産への影響も無視できない。情報システムの場合、洪水、暴風雨、猛暑はデータセンターや ITインフラに損害を与え、データ損失や事業運営の中断につながる可能性がある。インフラの損傷は通信の途絶をもたらし、内外のコミュニケーションに影響を及ぼすだろう。熱波や洪水、散発的な山火事の発生は、建物、機械装置、設備、社用車などに直接的、間接的な損害と多大な修理・交換費用を発生させる。