2018/09/03
安心、それが最大の敵だ
「ハード」・「ソフト」対策、着実に進む
ここで当サイトでの連載第3回と第24回に掲載した鬼怒川決壊関連コラムから一部引用したい。自治体による「災い転じて福となす」減災への努力を再度確認するためである。
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2471
3年前の2015年9月、関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、茨城県常総市は市域の3分の1が濁流に没した。その間、被災者から必死の救助要請が消防署に殺到した。常総広域消防本部と茨城西南広域消防本部にかかった119番は決壊から3日間に2500件以上に達した。市民の逃げ遅れが続出し、ヘリやボートなどで計4258人が救出される異常事態となった。災害時における逃げ遅れ問題が大きくクローズアップされた。中でもお年寄りの逃げ遅れが改めて浮き彫りになった。
被災後、国交省はじめ茨城県や流域自治体は、<水防災意識社会の再構築>を掲げ「ハード」・「ソフト」両面での対策が急がれると決意を新たにした。
災害の翌年2016年8月、常総市役所の敷地に非常用電源の設備を四方から囲む高さ2m、幅24cmのコンクリート壁が完成した。先の大洪水で庁舎内は高さ60cmまで水に浸かり、1階は水没し非常用電源も含めて停電となった。夜間、投光器を使っての対応に追われ、外部との連絡や資料コピーにも大きな支障が出た。低地にある市役所はハザードマップ(危険予測地図)で浸水想定地区に入っていた。市役所職員なら誰でも知っていておかしくない。だが「命綱」の非常用電源を守る手だては講じられなかった。
水害後、市内の主な道路沿いの電柱などに水位情報の看板標示(想定浸水深)とハチマキのような浸水値を示す赤と青のテープが巻き付けられた。(赤は鬼怒川決壊時、青は小貝川決壊時を想定)。視覚に訴える市民への注意喚起である。2種類のテープが示す浸水の深さは大人の背丈を超えるものも少なくない。同市が小貝川と鬼怒川に挟まれた低地に広がっていることを改めて考えさせる。
常総市は被災翌年の2016年から災害に対応する「危機管理室」を新たに設けた。大河を抱えながら、それまで危機管理専門官がいなかったのである。「広報推進室」も新設し防災や情報発信力を強化した。
浮き彫りになった行政の失態
常総市の初動対応について検証して来た水害対策検討委員会(委員長・川島宏一筑波大学教授)は、災害対策本部が十分機能せず、関連機関との連携にも問題があったなどとする77項目の改善要望を盛り込んだ報告書をまとめ市長に提出した。報告書は大規模水害時の市の失態を余すところなく指摘している。
(2)災害対策本部の在り方については、本部のメンバーに役割分担がなかったため、「入ってきた情報にその都度全員が集中してしまい、全体を俯瞰する人がいなかった」(検証委員)と指摘した。当初、消防や警察、自衛隊などから連絡要員が加わっていなかったことも踏まえ、「独自の情報収集手段は貧弱すぎた」と反省を促した。
(3)対策本部で市内の大判地図や浸水地域を想定したハザードマップを活用していなかったことも判明した。(ハザードマップの想定と実際の浸水域は一致した)。情報の分析が行われず、避難指示を出す範囲が広域的なエリアではなく、細かな字単位で出される事態になったとしている。ハザードマップそのものを知らなかった市民も少なくないという。
(4)堤防が決壊した上三坂地区への避難指示が抜け落ちていたことが大問題となった。同地区について、付近が決壊した場合の浸水域を想定した地図(氾濫シミュレーション)を国交省がホームページ上で公表していたにもかかわらず、市が事前に把握しておらず決壊前の対応に生かせなかった。検証委員会は「物理的環境や意思決定プロセスの手抜かりなど、それまでの課題が積み重なった結果、重大なエラーとして発生してしまった。これらの課題が解決していれば、問題は起こらなかったはずだ」と指摘した。
(5)各地区の避難指示の発令が遅れた原因については「発令の前提として、避難所を開設し、受け入れ準備を整えるという手順に固執したから」と手順に問題があったと結論付けた。川島委員長は「常総市には今回の提言を、地域防災計画の見直しや防災マニュアルの作成に生かして欲しい」と提言の積極活用を求めた。
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