2024/07/15
気象データ活用の最前線
ニーズに合わせたサービスで一般企業も使いやすく
ウェザーニューズ[ 千葉県]
前パートでは、気象データ活用の現状と課題を全体的に見てきた。ここでは、企業における気象データ活用の最前線を見ていきたい。いま、気象データはビジネスの現場でどのように使われているのか。何が可能となり、どのような変革へとつながっているのか。具体的な活用例と活用法について、企業防災・BCPとの関連を中心に、民間気象会社のウェザーニューズ(千葉市美浜区、石橋知博社長)に聞いた。

広がる気象データのビジネス利用
暑いときは冷たい飲み物が、寒いときは温かい飲み物がほしくなる。ドリンクの販売と気象条件は切っても切り離せない。適切な水分補給が不可欠となるこれからの季節、それらは人の健康とも密接に関係する。飲料水メーカーがマーケティングに気象を取り入れるのはそのためだ。
特定の商品を購入したりキャンペーンを利用したりするとポイントが貯まるスマホアプリは、いまや多くの飲食・飲料チェーンが導入するところ。ある大手飲料水メーカーはアプリ対応の自動販売機でドリンクを買うとスタンプが貯まるサービスを行っているが、そこへウェザーニューズの気象データを連携させた。
ドリンクの購入意欲を促すため、アプリを通じて天気にまつわるさまざまな情報を提供。その一つが、水分補給の観点からの熱中症予防キャンペーンだ。熱中症指数が「危険」「厳重警戒」のエリア内にいるアプリユーザーにプッシュ通知で注意を喚起。通知を受け取ったユーザーが自販機でドリンクを買うと、通常の2倍のスタンプがもらえる。
「実際、キャンペーンにより売上が20%伸びたとのこと。ドリンクの販売、こまめな水分補給、熱中症患者の抑制といった企業、顧客、社会それぞれのメリットを実現するのに気象データをうまく使ってもらった」と、ウェザーニューズモバイル・インターネット事業部グループリーダーの上山亮佑氏はいう。

1キロメッシュの高精度予報
前述の事例は、飲料水メーカーが自社のマーケティングにウェザーニューズの気象データを取り入れたケース。熱中症を切り口に、商品の販促と顧客・社会への貢献を目指すデータ活用だ。とはいえ、提供する気象情報が一般的な天気予報レベルでは消費行動の喚起には至らない。ポイントは、伝える情報のリアリティーとパーソナリティーの高さにある。
同メーカーがアプリで届ける通知は、ユーザー一人一人に最適化したもの。いま立っている場所の気象状況がベースだから『あなた、注意して!』と名指しされるようなリアリティーとパーソナリティーがある。アメダスの約10倍、全国約1万3000地点の独自観測網から得る豊富なデータがそれを可能にした。
通常、気象庁が出す天気分布予報は5キロ㎞四方のメッシュ。これに対し、ウェザーニューズは1キロメッシュに落とし込んだ予報を配信する。箇所数にして全国約38万ポイント。いわば高解像度の気象予報だ。
「5キロメッシュでは『晴れ』でも、細かく見ると『曇り』や『雨』のエリアがあったりする。そこにいる人にしたら、予報はハズレです。しかし1キロメッシュに落とし込めば『曇り』や『雨』も反映が可能。気象をより精緻に伝えられ、ハズレ感が大きく解消する」

この1キロメッシュ予報の裏付けが、前述の1万3000地点の観測データ。加えて同社は自社のユーザーからも1日平均18 万通の天気リポートを収集し、空の色や雲の形、大きさといった視覚情報も分析にかけている。上山氏によると、それらは特にゲリラ豪雨などの突発的な気象の予測に有効という。
「アメダスデータだけでも1キロメッシュの予報は可能ですが、分析するデータ量が少なければ、その分精度は下がる。何より、観測網の範囲を超えた予測は、算出はできても検証ができません。いい放しでは信頼性を下げてしまう」
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