Tobias Arhelger (Adobe Stock)

自動車メーカーで不正行為が相次いで発覚しています。国土交通省は対象車種の出荷停止を指示しました。一方、認証制度に問題があり、現場の負担を心配する声もあります。今回は「ブルシット・ジョブ」という言葉をもとに、従業員のモラルハザードを防ぐ仕組みについて解説します。

<事例:自動車メーカーの不正>

2024年6月、トヨタ自動車をはじめとした自動車会社5社(トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機)でクルマや2輪車の型式指定申請における不正行為が発覚しました。昨年明るみになったダイハツ工業や豊田自動織機での不正問題を受け、今年1月に国土交通省は型式指定を取得している自動車メーカーら85社に対して申請における不正行為の有無などに関する調査・報告を指示していたところ、5月末までに上記の5社から不正行為が行われていたと報告されました。

業界最大手のトヨタ自動車が含まれていたこともあり、この問題は大きなニュースとなりました。不正発覚を受けて記者会見に臨んだトヨタ自動車の豊田章男会長は、「こうした行為は認証制度の根底を揺るがす行為で、自動車メーカーとしては絶対にやってはいけない」と謝罪の意を述べました。

その一方で「今日の会見で言うべきじゃないんですが、やはりこれをきっかけに、国とすり合わせをして、何がお客さまのために、そしてまた日本の自動車業界の競争力向上につながるか、制度自体をどうするのかという議論になっていくといいなというふうに思います」と、認証制度の見直しの必要性にも言及しました。

この豊田会長の発言がきっかけで、インターネットやSNSを中心に、国の型式認証制度に対して様々な議論が沸き起こり、以下のような意見が見られました。

「メディアは不正、不正と騒ぎたて、日本車の信頼が失墜した、と批判しているが、日本の自動車メーカーは独自に世界一厳しい基準で性能試験をしているので、安全性には何の問題もない」

「世界で勝負をしている自動車メーカーは、各国での厳しい規制をクリアするため、メーカー独自の試験で、独自の安全・環境基準を持ち、それらを達成した上で自動車を製造している。大量生産の資格を得るためだけに行われる認定制度は、もはや意味が無い」

「悪質性があるものではなく、国の時代錯誤的な制度のせいだ。そのことがメーカー各社の競争力向上の足を引っ張っている」

自動車メーカーで働くAさんは、不正問題のニュースにショックを受けています。しかし、日々の仕事のなかで、認証制度における手続きの煩雑さにうんざりしている一面があるのも事実です。実際に現場での負担は大きく「無意味で無駄な仕事」とはっきり口に出す同僚もいたりします。

Aさんは「トヨタ会長の言う通り、自動車メーカーとしては絶対にやってはいけないことではあるが、それによって現場が疲弊しているのは事実だ。何とかならないものだろうか」と思っています。