パワー・ハラスメント(パワハラ)の問題が、再びメディアを賑わしています。一方で、パワハラを恐れるあまり、社内のコミュニケーションが希薄になるリスクも指摘されています。今回はパワハラ問題を解説します。

■事例:パワハラに異常なほど敏感な企業

50代の管理職であるAさんの会社は建設業なのですが、2年ほど前にパワハラが社内で問題になりました。Aさんの同僚で、現場監督であった人が現場で度重なるパワハラを行っていたとして、懲戒解雇になったのでした。その同僚は、部下に対して現場で暴言を繰り返し、指導と称しては部下のプライベートな部分にまで干渉し、あれこれと口出しをしていたようでした。困り果てた部下が弁護士に相談し、弁護士事務所から会社に連絡があり、会社が調査した結果、その事実が判明しました。

その事件以降、Aさんの会社では、社員、特に管理職がパワハラに対して異常ともいえるほど、敏感になっていきました。「パワハラと言われるのが怖いので、部下に注意ができない」「部下に遠慮して言いたいことも言えない」といった声が多く聞こえるようになってきました。

建設現場は危険と隣り合わせの環境です。一歩間違えば、命を落とすことにもつながりかねません。そのため、大声を上げることや、乱暴な口調で相手にモノを言うこともあるのが実情です。解雇になった元同僚も、確かにプライベートへの干渉はやりすぎではありましたが、暴言と言われたものも、その多くが相手の危険を回避するための言葉や、作業方法を指導するためのものだったとも聞いています。

Aさんと年齢の近い年下の管理職も「パワハラを気にするあまり、部下とのコミュニケーションが希薄になってきている」とも言っていて、その声にAさんは何と答えていいかわかりません。

Aさんは「パワハラはやってはならないと思うが、だからといって部下に注意できなくなるのは、違うのではないか。労働災害に直結する危険がある現場では、大声で叱責することだってある。『死にたいのか、バカヤロー!』と怒鳴ることなど日常茶飯事だ。パワハラを気にしたために命を落とすことがあったら、本末転倒ではないか。もし部下を注意できない日々が長く続いていったら、この会社の職人や技術者の技術伝承もままならなくなるのではないか。だからといって自分が若手だった頃のような暴言や、時には暴力といったものを肯定はできないが…」と、考えが堂々巡りに陥っています。