労働基準法上の労働者
実質的に判断される労働者性

山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2024/03/27
弁護士による法制度解説
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
雇用契約・労働契約ではなく、業務委託契約等を締結することにより、受託者に自らの業務の遂行を担ってもらっている事業者は多いと思います。雇用契約・労働契約を締結し労働者として雇い入れると、労働基準法をはじめとする各種労働法規の適用を受けることになり、事業者(使用者)側にとっては、それが事業コストとなります。
また、事業者(使用者)側から雇用契約・労働契約を解除する(労働者を解雇する)際には、いわゆる解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されるなどしてハードルが高い場合が多く、業務量の増減に応じて臨機応変に労働力を増減させるという観点からも、柔軟性を欠く面があることは否定しきれません。
この点、業務委託契約は、民法上の契約としては、その内容に応じて、(準)委任契約や請負契約に分類されるものではありますが、各種労働法規の適用を受けることは、(少なくとも形式上は)ありませんし、雇用契約・労働契約の解除(解雇)に比して、契約の解除は容易に認められます。このため、業務委託契約は事業者にとって魅力的な契約であるといえます。
しかしながら、委託者・受託者間で、仮に「業務委託契約」という名称の契約書を交わしていたとしても、その内容・実態に照らして、受託者が「労働者」であると認められると、労働基準法が適用されることになります。契約の名称は、契約の性質を判断する上で一つの判断要素になりますが、それだけ(形式面だけ)で決まるものではなく、あくまでも、実質的に判断されるものなのです。
このため、業務委託契約を締結する際には、形式を整えるだけでなく、実体もそれに相応しいものにしなければなりませんし(受注者を「労働者」として扱わないようにしなければなりませんし)、それが難しいような業務を担ってもらいたいのであれば、それは、そもそも業務委託契約という方法を採用することが適切でない局面であるというべきです。
労働基準法における「労働者」性の判断は、育児介護休業法、労働者派遣法等でも基本的には同じものであるとされており、また、労働契約法でもおおむね同様であると考えられています。そこで今回、労働基準法の「労働者」について取り上げてみたいと思います。なお、労働組合法上の「労働者」の概念とは異なるとされていますので、ご留意ください。
弁護士による法制度解説の他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方