2024/03/01
インタビュー
小さな自治体も工夫次第で効率化が可能
ブイキューブ営業本部公共ソリューション営業グループ
グループマネージャー 武井祐一氏

政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」は、2030 年度までの全自治体のデジタル実装が目標。新たな交付金制度を活用した事業の採択も増え、防災DXサービスにも追い風が吹いている。災害時の情報共有システムを提供するブイキューブ(東京都港区、高田雅也代表取締役社長国内CEO)公共ソリューション営業グループの武井祐一氏に、防災DXサービスの動向と今後について聞いた。
災害情報コンテンツ自体は充実
――現在、さまざまな防災DXサービスが提供されています。災害時の情報環境はどう変化していますか?
災害時に必要な情報コンテンツのオープンデータ化が急速に進んでいます。気象庁による雨量や予報、災害危険度、河川・道路管理者による水位計やライブカメラ映像など、各種情報がデジタル化され、インターネットで即時提供されている。これらを集めて整理するだけで初動対応にかなり役立ちます。
例えば道路の冠水や陥没に際し、通報を受けてから担当職員を派遣、状況を確認して報告といった従来のプロセスはそれなりに時間がかかります。しかし、水位計やライブカメラをもとに危うい場所を絞り込めれば、効率よく職員を向かわせることが可能です。
加えて、自治体の防災情報システムが普及してきた。これは、どこでどのような被害が起きているのか、どこで避難所が開設され何人が入所しているのかといった詳細なエリア情報を、自治体が独自に収集する仕組みです。ただ、インターネット上のオープンデータと違い、担当者による入力が必要です。
こうした情報インフラの発達は、画像や映像、地図といった視覚情報の活用を促進しました。電話やファックスなど音声・文字によるやり取りは、緊急時は特に伝わりにくく読み取りにくい。これを視覚的に伝えられるようになり、かつ、地図上にプロットできるようになったことで、関係者間で危機意識を共有しやすくなりました。
――情報コンテンツ自体が充実し、誰でも使えるようになってきた、と。
そうですね。ただ、情報コンテンツを有効に活用するにはソフトが必要です。情報収集・整理・共有とひとことでいいましたが、それほど簡単ではない。防災情報システムは、申し上げたとおり、担当者の入力がないと用をなしません。ネット上のオープンデータを使うにしても、各機関のホームページに取りにいく必要があります。
さらに、仮に情報を集められたとしても、意思決定に生かすには分析が必要です。そのためには、災害対策本部が被害の全体像をわかりやすく俯瞰できないといけない。情報の整理・統合、すなわち編集が不可欠で、これまではその作業を紙の地図に付箋を貼るなどして行っていたわけです。
ただ、紙の図面だと、刻々と変化する状況をオンタイムで反映したり、エリアを絞り込んで詳細な状況を瞬時に取り出したりはできない。つまり、防災情報システムやインターネットで集めたデジタル情報を、紙の地図でやっていたように、一つの画面上でわかりやすく見せてあげる作業が重要です。いちいちモニターを切り替えていては、デジタル化の効果が薄れてしまう。

――増えてきた情報コンテンツの整理・編集が課題ということですか?
そうですね。あと、そうした仕組みをどのようなネットワーク上でつくるかも課題です。クラウド上でもいいのですが、災害時の情報コンテンツは自治体がオンプレミスで使いたいものが多い。なぜなら個人情報が含まれるからで、厳格な情報漏えい対策が求められる情報が多くあります。
また、災害時でも安定してつながるネットワークでないといけない。ITサービス企業はネットワークのインフラ自体を提供しているわけではないので、そこに直接関わることはできませんが、自治体や企業が災害対応をにらんでネットワークを冗長化している場合は、それぞれにシステムを構築できることが求められます。
つまり、災害情報の収集・整理・統合・共有の仕組みは、さまざまなネットワークに柔軟に対応できないといけない。その点において、ZoomやTeamsなどの汎用的なコミュニケーションツールとは違ったつくり込みが求められます。
- keyword
- 防災DX
- 災害時情報共有システム
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方