不祥事・不正についての対応と考え方
内部通報への適切な対応と被害者への誠実な対応
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2023/10/25
弁護士による法制度解説
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
近時、大学の体育会部員による大麻所持問題、中古車販売・修理業者による保険金不正請求問題、芸能事務所の旧代表者による性加害問題など、センセーショナルでショッキングな不祥事・不正が立て続けに発覚・表面化し、間断なく社会の注目を集めています。
これらの不祥事・不正について、例えば、当該大学は、内部の事情を知ると思われる者からの通報により不祥事の疑いを知ったのにもかかわらず、適切かつ十分な対応がなされていなかったのではないかということが指摘され、批判されましたし、当該芸能事務所は、民事裁判により旧代表者による性加害の事実が認定されながらも内部調査等を何らすることなく旧代表者の責任を不問にしてきたことが指摘され、批判されているところです。
このような事情に鑑みれば、これらの不祥事・不正は、不祥事・不正それ自体が衝撃的なものであることに加え、不祥事・不正についての大学・企業の対応が注目を集め、その是非が問われているといえるように思います。
つまり、不祥事・不正が発生したということそれ自体に加え、場合によっては、そのことよりも、不祥事・不正の存在の疑いを覚知したのにもかかわらず、適切かつ十分な対応がなされなかったということこそが問われているといえるのです。
先ほど例に挙げた大学や芸能事務所でも、不祥事・不正の疑いを通報や裁判で覚知したのにもかかわらず、適切かつ十分な対応がなされてこなかったと指摘・批判されているところですが、このことを考える際に非常に参考になるといえるのが、株式会社島津製作所(以下「島津製作所」)の外部調査委員会による「調査報告書(公表版)」(2023年2月10日)です。
外部調査委員会による「調査報告書(公表版)」(2023年2月10日)
https://www.shimadzu.co.jp/sites/shimadzu.co.jp/files/ir/pdf/d0jr/9sluw6oivqlpi0z7.pdf
この調査報告書は、島津製作所の子会社である島津メディカルシステムズ株式会社(以下「島津メディカル」)における「島津メディカルのサービス技術者が、各医療機関が利用しているX線装置の保守点検等の際に、電気回路のON/OFFを切り替えることができる外付けタイマーをX線装置の回路内に取り付け、タイマーの設定時間経過後に電気回路が OFFになるようにすることで、電力供給回路が遮断されるようにし、その結果として、故意にX線装置が稼働しないようにし、その構成部品が消耗や経年劣化で故障したように見せかけ、当該構成部品につき有償で交換するようにした」(10頁)という不正について、島津製作所・島津メディカル合同での社内調査を経た上で、外部調査委員会が設置され、調査等が行われたものを取りまとめ、公表されたものになります。
外部調査委員会の設置に先立つ社内調査の端緒は2022年4月下旬における匿名の内部通報ですが、その社内調査により、既に2017年の時点において、島津メディカルの執行役員の1人が、当該不正の疑いにつき、写真や録音データで報告・相談を受け、覚知していたという事実が判明したのです。
2017年当時、内部通報を受けた当該執行役員は、「管理職らが集まる会議に出席し、コンプライアンス研修を実施したほか、一部の管理職らに対し、不正事案を探知していることを暗に示唆する発言を行った」(16頁)ものの、「当該研修の実施と一部管理職らへの示唆的な発言により、不正行為に関与しているか、あるいは不正行為を認識しているはずの管理職らへの牽制が働き、以後は不正行為が行われなくなるであろうと考え」(16頁)たため、「事案の調査、島津メディカル内での代表取締役社長・取締役会・監査役への報告、島津製作所への報告などの対応を行わ」(16頁)なかったのです。
おそらく、当該執行役員は、不正を放置することはできないと思ったものの、事態を内々に収束させたいと思い、このような行動に出てしまったのだと思います。これは、心情としては理解できない面がないとはいえません。しかしながら、この対応により、会社による不正の覚知・対応が遅れ、不正が拡大するということにつながってしまったということができます。
このことから学べることは、まず、社内に不祥事・不正について対応する部署を設け、内部通報等の不祥事・不正の疑いについての情報を一元的にすくい上げ、調査等を実施する体制を整えるということです。
また、それにとどまらず、不祥事・不正については、会社が早期に覚知・対応していくことが、事態・被害の悪化を防ぐものであり、不祥事・不正についての情報提供(内部通報)を積極的に行うことが会社の利益に資するということを従業員・役員に周知し、理解を広めていくということが極めて重要であるということです。
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