「超高齢化社会」への分岐点となる2025年問題に加え、IT分野では「2025年の崖」問題がクローズアップされています。前回に続き、2025年の崖について、解説をしていきます。
■解説:DX白書2023を読み解く
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が今年3月に公開した「DX白書2023」では、サブタイトルに「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」との文言が記されていて、国内企業で本来のDXが進んでいない現状を端的に表しています。
DX白書は大きく5部立てになっています。
第1部 総論
第2部 国内産業におけるDX取り組み状況の俯瞰
第3部 企業DXの戦略
第4部 デジタル時代の人材
第5部 DX実現に向けたITシステムの開発手法と技術
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このうち、筆者が特に注目したのが第3部と第5部です。
第3部では、企業がDXを進めていくにあたってどのような戦略を立て、どのようなプロセスで進めていけばいいのかについて、具体的な提言がされています。
前回、および本連載第43回から、DXとは本来「デジタル技術を活用して、ビジネスモデルの大幅な変更、拡張または新規のビジネスモデルの開発を可能にするもの」であると繰り返し述べてきました。経産省の「DXレポート2」ではこのことを上手く図式化しています。
【DXの構造】
しかしながら国内企業のDX取り組み状況をみると、本来の意味としてのDXに取り組んでいる企業はあまり多くないようです。
【DXの取組み内容とその成果】
出典:DX白書2023
上のグラフからは、「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」については、なんらかの「成果が出ている」とする回答が8割近くになるのに対し、「新規製品・サービスの創出」と「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」に対しては2割程度にとどまっているのがわかります。これは経産省のDXレポートでいうところの、デジタイゼーション、デジタライゼーションとDXの違いがよくわかっていないことが原因なのではないでしょうか。
では、DX戦略をどのように立案すればいいのか? DX白書2023では、そのプロセスを以下のようにまとめています。
●DX推進によって達成すべきビジョンを定める
●外部環境変化とビジネスへの影響評価を考慮したうえで取組領域を策定する
●推進プロセスの策定を行い、 達成に向けた道筋を整理する
●策定した推進プロセスを実現するために、人材・ITシステム・データという営資源をどのように獲得・配置し継続的に有効活用するかを検討する
●顧客への価値提供を評価するための評価指標の設定とDX推進状況の評価、評価結果に基づく人材、投資などのリソース配分見直しの仕組みを構築する
これらを図式化すると以下のようになります。
【DX戦略と全体像の進め方】
出典:DX白書2023
DXの推進にあたっては、上の「戦略策定」「推進」「評価」のプログラムを早いサイクルで繰り返し、失敗から学習しながら進めることが大切であるとされています。
個々のプロセスの詳細については、DX白書をご一読いただきたいと思いますが、実は第2部の「国内産業におけるDX取り組み状況の俯瞰」内に、企業規模別や業種別の具体的なゴールイメージが書いてあります。
DX白書第2部は、民間企業、官公庁(民間への委託含む)、各種団体におけるアンケート調査結果や、IPA自身が実施した調査をもとに国内の様々な地域・業種のDXの取り組み状況154事例を取りまとめた資料ですが、その中に例えば「企業規模別の取り組み状況俯瞰図」にこのような事例の記載があります。
【企業規模別俯瞰図】
売上高
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DXとしてのゴール
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企業の取り組み事例
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50億円未満
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スタートアップ含め、マッチング事業や先進技術ソリューションによる新規サービス・商品の取組事例
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●睡眠解析技術とセンサフュージョン 技術を活用したSaaS型見守りサービス(情報通信業)
●遠隔水位調整サービスを用いた在宅勤務者雇用マッチング事業(情報通信業)
●地産地消を実現する青果流通プラットフォーム(卸売業,小売業)
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50億円~
100億円
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各企業の業種・ノウハウに応じたソリューションの開発
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●介護サービス関係者間での情報共有を可能とするデータベース(製造業)
●水道利用状況を活用した高齢者見守りシステム(製造業)
●建設業向けMR(複合現実)ソリューションの開発・導入・販売(建設業)
●メタバースによるスポーツ観戦空間の提供(情報通信業)
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100億円~
1000億円
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自社ノウハウ・技術を用いた新規ビジネス領域への取組み
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●入出金情報を基にしたトランサクションレンディング(金融業・保険業)
●介護タクシー業者と患者のマッチングPFサービスの取組み(情報通信業)
●航空レーザー測深技術を用いた釣り情報サービスアプリの展開(学術研究、専門、技術サービス業)
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1000億円
以上
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業界共通プラットフォーム提供
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●センサー・AI活用ロボット導入による関係者コミュニケーション促進(医療、福祉)
●ガス業界内外で利用可能な受発注フラットフォーム展開(ガス業)
●物流プラットフォームサービスによる顧客・同業他社連携強化(運輸業)
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出典:DX白書2023より筆者一部抜粋、加工
さらには、「他企業、団体協働型類型別俯瞰図」には、以下のような記載もあります
【他企業・団体協働型類型別俯瞰図】
協働先の企業・団体の類型
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DXとしてのゴール
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企業の取り組み事例
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自治体・大学・研究機関・非営利団体
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大学や研究機関、自治体と連携した街づくりや地域産業に関連する事例
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●研究機関と連携したAIによる魚雌雄自動判別ソリューションの創出(東杜シーテック株式会社~情報通信業)
●大学や自治体と連携したICTを活用した赤潮予測への取組(愛南漁業協同組合~漁業)
●公・民・学連携での「柏の葉」ヘルスケアサービス開発エコシステムの構築(三井不動産株式会社~不動産業,物品賃貸業)
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情報通信事業者
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ITベンダー等の協働により、新商品。サービス開発を実現する事例
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●大手情報通信企業と連携した建築業向けMR(複合現実)ソリューションの開発・販売(小柳建設株式会社~建設業)
●グループの情報通信企業と連携したサブスクリプション型IoTサービス提供のためのプラットフォーム構築・販売(東京センチュリー株式会社~金融業,保険業)
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取引先(顧客・仕入先・委託先等)
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取引先とのWin-Win関係を実現する新規サービスを創出する事例
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●コロナの影響で需要が落ちている飲食店と共同で、アプリでの注文が可能な地域飲食店デリバリーサービスを創出(オリエント交通~運輸業,郵便業)
●工具販売店と連携した工具ユーザーからの注文を不要にする”置き工具”サービス(トラスコ中山株式会社~卸売業,小売業)
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グループ会社(子会社・親会社・関連会社等)
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子会社や共同出資企業を通じた新規ビジネス創出事例
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●グループのIT企業と連携したサブスクリプション型IoTサービス提供のためのプラットフォーム構築・販売(東京センチュリー株式会社~金融業,保険業)
●複数の金融機関、建設事業者等が共同出資し、IoTデータを活用した建設業者と金融サービスをつなぐプラットフォームビジネスを創出(株式会社ランドデータバンク学術研究~専門・技術サービス業)
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出典・DX白書2023より筆者一部抜粋、加工
これらの「DXとしてのゴール」「取り組み事例」などは自社のDXの戦略を立案するヒントになるかもしれません。
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