コロナ収束が進む一方、賃上げストライキが深刻に
第18回: 英労働者の「不満の冬」

ライアン カミムラ
英国の大学院を卒業後、新建新聞社に入社。リスク対策.comの記者、編集者を経て現在某機械メーカーの海外営業部に勤務。主にコロナ前は海外展示会や海外営業担当、コロナ後はオンラインで英語プレゼンに従事。記者時代の経験を生かし、現在も記事、イラスト、翻訳を兼業。
2023/01/04
危機管理で学ぶ英語
ライアン カミムラ
英国の大学院を卒業後、新建新聞社に入社。リスク対策.comの記者、編集者を経て現在某機械メーカーの海外営業部に勤務。主にコロナ前は海外展示会や海外営業担当、コロナ後はオンラインで英語プレゼンに従事。記者時代の経験を生かし、現在も記事、イラスト、翻訳を兼業。
パンデミックの混乱が収束に向かう一方で、イギリスでは記録的なインフレ上昇率を背景にした生活困窮者の急増が社会問題化しています。2022年12月には、鉄道、バス、航空、郵便、道路などの輸送機関だけでなく、看護師、医師、救急車などの公的医療機関に至るまで、幅広い業種で連日ストライキが発生。多くの公的機関が機能不全となり、混乱が広がっています。パンデミックの行動制限が緩和された3年ぶりのクリスマス休暇前に現れた新たな大問題。果たして事態は解決に向かうのでしょうか?
1. While Covid restrictions played the Grinch in 2020 and 2021, this year a wave of strikes is threatening to wreck the festive season.
Bloomberg, 25th of Nov
2020年と2021年にコロナウイルスによる行動制限があった一方で、今年はストライキの波の脅威が、(クリスマスの)祝祭の季節を台無しにしようとしている。
2. Britain is facing its 2022 equivalent of the late 1970s’ winter of discontent.
Guardians, 18th of Dec
イギリスは、70年代後半の「不満の冬」と同等のストライキに直面している。
3. U.K. inflation jumped to a 41-year high of 11.1% in October, exceeding expectations as food, transport and energy prices continued to squeeze households and businesses.
CNBC, 16th of Nov
イギリスの10月のインフレの対前年比上昇率が11.1%と41年ぶりの高水準となった。予想を超えた食品価格、交通費、光熱費が、引き続き家計や経済を苦しめた。
4. Inflation in Britain is higher than in the United States or the euro zone as a whole, though below that in Germany.
Reuter, 14th of Dec
(10月の)イギリスのインフレは、米国もしくは欧州全体(ドイツよりは低いが)よりも高い。
5. From transport to the NHS, education to delivery drivers, tens of thousands of workers are expected to take action as recession grips the UK and the cost of living rises.
Sky News, 20th of December
交通機関からNHS、教育、輸送ドライバーまで、何万もの労働者が、イギリス国内の不景気の食い止めと生活費の上昇のための対応策を講じることを期待している。
6. Walk-outs in rail by RMT members, which started in June, are the union's biggest action for over 30 years, while for nurses, it is the first ever national strike action in the Royal College of Nursing's (RCN) 106-year-old history.
Reuter, 12th of December
6月に始まったRMTによる鉄道ストライキは、同組合の30年以上にわたる活動の中で最も大きなものだ。一方、看護師等の労働組合であるRCN(王立看護協会)のストライキは106年の歴史の中で初めて。
7. The boss of the biggest rail workers' union has called on the prime minister to meet him in an attempt to resolve the long-running strike action.
BBC, 10th of December
鉄道関連で最大の労働組合のトップが、(リシ・スナク)首相に長期に渡るストライキを解決するために自分と会談をするように要求した。
8. The London Ambulance Service (LAS) earlier declared a “business continuity incident” as it faces huge pressure during a strike by workers.
ITV, 21st of Dec
ロンドン市救急隊は労働者のストライキ期間中は「事業継続インシデント」だと早々に宣言した。
9. Royal Mail strike action has been ongoing and will continue up to the two days before Christmas…. The strikes will stymie Christmas cards and deliveries, already retailers are saying do not shop online; customers must buy in-store as gifts posted will not reach by the 25th.
Sunday Gurdians, 17th of Dec
ロイヤル・メール(郵便)のストライキはクリスマスの2日前まで続く。(一部省略)これらのストライキは、クリスマスカードや様々な配達の障害となる。小売店では、店頭で購入しない限り(郵送では)25日までにプレゼントは届かないため、オンラインショッピングをやめるよう客に伝えている。
おまけ 2022年の「ワード・オブ・ザ・イヤー(今年の単語)」
辞書出版各社が、その年の最も検索数が多かった単語を発表する年末の恒例行事 “word of the year(今年の単語)”。2020年 の“pandemic”や、2021年の”vax (vaccine)” などコロナ関連の言葉で占めていた時と比較して、今年はバラつきが見られました。
イギリスのCollins dictionary では、“permacrisis(パーマクライシス)”。「長期にわたる不安」を意味します。コロナ、ウクライナ侵攻、(イギリス内で)2度の首相交代、記録的インフレなど、立て続け(かつ継続的)に危機が発生したことから、permanent (永遠に) crisis(危機)が続くという造語です。
Oxford dictionary は “Goblin mode(ゴブリン・モード)”。Goblinとは「(自分勝手な)小鬼」のこと。コロナ禍の長期にわたるステイホームやリモートワークの結果、(小鬼のように)怠惰でだらしなくなった生活を指します。コロナ収束が進むにつれ、行動制限が緩和される中、元の生活に戻りたくない人達の間で使われるようになったようです。最近では、イーロン・マスクが、ツイッター社の社員にテレワーク禁止を通知するなど、こうした生活スタイルに喝を入れていますね。
アメリカの辞書merriam websterでは“Gaslighting”。些細な嫌がらせや根拠のない誤った情報を意図的に流すことで人を惑わして心理的虐待することを意味します。ドナルド・トランプ関連など米国の中間選挙などで出てくる「フェイクニュース」や「陰謀論」などの社会問題化に伴い、急速に認知されるようになりました。言葉の由来は、1938年に発表され、映画化もされた舞台劇 ”Gaslight (邦画題では「ガス燈」)”。遺産に目のくらんだ夫が、周囲の品々に細工をして妻を精神的に追い詰める話です。
今回の例文中の“Grinch”、”Winter of Discontent”、そしてこの“Gaslighting”のように、英米圏では映画や小説由来の言葉が多く使われていますが、由来となる作品はイギリスだったり、アメリカだったりするため、ネイティブスピーカーも、必ずしも言葉の意味や由来を知っているわけではないようです。
最後に Cambridge dictionaryでは“homer”という言葉が選出されました。これは、野球の「ホームラン」 のことです。検索数が急増化した背景は、今年、英語圏で爆発的に流行したwordle (5文字のパズルゲーム)です。問題作成者のイギリス人が、アメリカ人を対象にした問題にしたため、野球に馴染みのないイギリス人多くが、解答の意味が分からず、新聞にその問題が掲載された日時にオンライン辞書での検索数が伸びたようです。
世界中の様々な国で第一言語として話される英語は、日々新しい言葉が生まれ、ネイティブスピーカーにとっても見慣れない言葉が多々あるといいます。英語学習者の私たちが分からない単語に出くわすのは尚更ですが、くじけず一歩一歩、一緒に勉強していきましょう!カメのスピードでもいつかはウサギに追いつくことを信じて。
危機管理で学ぶ英語の他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方