画像:Sky News “Strikes every day before Christmas - which sectors are affected and why” より。連日、様々な業種でストライキが続いている。

パンデミックの混乱が収束に向かう一方で、イギリスでは記録的なインフレ上昇率を背景にした生活困窮者の急増が社会問題化しています。2022年12月には、鉄道、バス、航空、郵便、道路などの輸送機関だけでなく、看護師、医師、救急車などの公的医療機関に至るまで、幅広い業種で連日ストライキが発生。多くの公的機関が機能不全となり、混乱が広がっています。パンデミックの行動制限が緩和された3年ぶりのクリスマス休暇前に現れた新たな大問題。果たして事態は解決に向かうのでしょうか?

1. While Covid restrictions played the Grinch in 2020 and 2021, this year a wave of strikes is threatening to wreck the festive season.

Bloomberg, 25th of Nov

2020年と2021年にコロナウイルスによる行動制限があった一方で、今年はストライキの波の脅威が、(クリスマスの)祝祭の季節を台無しにしようとしている。

Grinch:名詞で「しらけさせる人」。米国の絵本作家ドクター・スースが1957年に発表した"How the Grinch Stole Christmas"(日本語名:いじわるグリンチのクリスマス)のキャラクターに由来。主人公の孤独で気難しいグリンチが、クリスマスを台無しにしようと企む物語。
wreck:動詞で「破滅する/難破させる」。 festive 形容詞で「お祝いの/陽気な/楽しい」。festivalは同様の意味で、名詞にも形容詞にもなるが、名詞としての意味合いが強い。

 

2. Britain is facing its 2022 equivalent of the late 1970s’ winter of discontent.

Guardians, 18th of Dec

イギリスは、70年代後半の「不満の冬」と同等のストライキに直面している。

equivalent:名詞で「同等のもの」。  
winter of discontent:「不満の冬」。1978年から1979年の冬にかけてイギリスで起きた大規模な賃上げストライキのことを指す。シェイクスピアの「リチャード三世」の冒頭の言葉を、当時の記者や政治家が記事や演説などで広く引用したことに由来している。

 

3. U.K. inflation jumped to a 41-year high of 11.1% in October, exceeding expectations as food, transport and energy prices continued to squeeze households and businesses.

CNBC, 16th of Nov

イギリスの10月のインフレの対前年比上昇率が11.1%と41年ぶりの高水準となった。予想を超えた食品価格、交通費、光熱費が、引き続き家計や経済を苦しめた。 

inflation:名詞で「インフレーション」。消費者物価指数はCPI(Consumer Price Inflation)。
a 41-year high:数字をハイフンでつなぐとsがつかない(複数形にならない)こと、冠詞のaが付くことが多いことに注意。Squeeze 動詞で「搾る/苦しめる」。

 

4. Inflation in Britain is higher than in the United States or the euro zone as a whole, though below that in Germany.

Reuter, 14th of Dec

(10月の)イギリスのインフレは、米国もしくは欧州全体(ドイツよりは低いが)よりも高い。

as a whole:「全体として」。ユーロ圏内で10月のインフレ率がイギリスより高かったのは、イタリアの12.8%とドイツの11.6%。ドイツは1950年初めの旧西ドイツ以来の高水準。日本が同月3.6%の上昇で40年ぶりの伸び率として問題となっていたことと比べると、ユーロ圏内のインフレがいかに家計を脅かす事態か想像できる。

 

5. From transport to the NHS, education to delivery drivers, tens of thousands of workers are expected to take action as recession grips the UK and the cost of living rises.  

Sky News, 20th of December

交通機関からNHS、教育、輸送ドライバーまで、何万もの労働者が、イギリス国内の不景気の食い止めと生活費の上昇のための対応策を講じることを期待している。

NHS:National Health Service 「(イギリスの)国民保険サービス」。
take action:動詞で「取り掛かる/措置を講じる」。 recession grips「不景気を食い止めること」。

 

6. Walk-outs in rail by RMT members, which started in June, are the union's biggest action for over 30 years, while for nurses, it is the first ever national strike action in the Royal College of Nursing's (RCN) 106-year-old history.

Reuter, 12th of December

6月に始まったRMTによる鉄道ストライキは、同組合の30年以上にわたる活動の中で最も大きなものだ。一方、看護師等の労働組合であるRCN(王立看護協会)のストライキは106年の歴史の中で初めて。

Walk-out:名詞で「ストライキ」。-(ハイフン)をとると、動詞としても使用可能。
RMT:The Rail, Maritime and Transport Workers unionの略。「鉄道、海上、輸送労働者組合」。イギリス全土28社の鉄道会社の内14社の雇用者を占める輸送業界最大の労働組合。
Royal College of Nursing (RCN):王立看護協会。イギリスにおける看護師などの労働組合。

 

7. The boss of the biggest rail workers' union has called on the prime minister to meet him in an attempt to resolve the long-running strike action.

BBC, 10th of December

鉄道関連で最大の労働組合のトップが、(リシ・スナク)首相に長期に渡るストライキを解決するために自分と会談をするように要求した。

call on:動詞で「呼びかける/要求する」。 in an attempt to 「~しようと企てる」。
resolve:動詞で「解決する/折り合いをつける」。solveと比較すると、完全に解決したのではなく、落ち着かせる、終わらせる、という妥協のニュアンスが含まれる。

 

8. The London Ambulance Service (LAS) earlier declared a “business continuity incident” as it faces huge pressure during a strike by workers.

ITV, 21st of Dec

ロンドン市救急隊は労働者のストライキ期間中は「事業継続インシデント」だと早々に宣言した。

business continuity incident:リスク管理用語で「事業継続インシデント」。事業の中断が起こってしまった事態、事業を支える重要な業務の中断が起こってしまった事態。

 

9. Royal Mail strike action has been ongoing and will continue up to the two days before Christmas…. The strikes will stymie Christmas cards and deliveries, already retailers are saying do not shop online; customers must buy in-store as gifts posted will not reach by the 25th.

Sunday Gurdians, 17th of Dec

ロイヤル・メール(郵便)のストライキはクリスマスの2日前まで続く。(一部省略)これらのストライキは、クリスマスカードや様々な配達の障害となる。小売店では、店頭で購入しない限り(郵送では)25日までにプレゼントは届かないため、オンラインショッピングをやめるよう客に伝えている。

Royal Mail:旧郵政省が民営化されて2007年にできた郵便サービス。 
stymie:動詞で「邪魔をする/妨害となる」

 

おまけ 2022年の「ワード・オブ・ザ・イヤー(今年の単語)」

辞書出版各社が、その年の最も検索数が多かった単語を発表する年末の恒例行事 “word of the year(今年の単語)”。2020年 の“pandemic”や、2021年の”vax (vaccine)” などコロナ関連の言葉で占めていた時と比較して、今年はバラつきが見られました。

イギリスのCollins dictionary では、“permacrisis(パーマクライシス)”。「長期にわたる不安」を意味します。コロナ、ウクライナ侵攻、(イギリス内で)2度の首相交代、記録的インフレなど、立て続け(かつ継続的)に危機が発生したことから、permanent (永遠に) crisis(危機)が続くという造語です。

Oxford dictionary は “Goblin mode(ゴブリン・モード)”。Goblinとは「(自分勝手な)小鬼」のこと。コロナ禍の長期にわたるステイホームやリモートワークの結果、(小鬼のように)怠惰でだらしなくなった生活を指します。コロナ収束が進むにつれ、行動制限が緩和される中、元の生活に戻りたくない人達の間で使われるようになったようです。最近では、イーロン・マスクが、ツイッター社の社員にテレワーク禁止を通知するなど、こうした生活スタイルに喝を入れていますね。

アメリカの辞書merriam websterでは“Gaslighting”。些細な嫌がらせや根拠のない誤った情報を意図的に流すことで人を惑わして心理的虐待することを意味します。ドナルド・トランプ関連など米国の中間選挙などで出てくる「フェイクニュース」や「陰謀論」などの社会問題化に伴い、急速に認知されるようになりました。言葉の由来は、1938年に発表され、映画化もされた舞台劇 ”Gaslight (邦画題では「ガス燈」)”。遺産に目のくらんだ夫が、周囲の品々に細工をして妻を精神的に追い詰める話です。

今回の例文中の“Grinch”、”Winter of Discontent”、そしてこの“Gaslighting”のように、英米圏では映画や小説由来の言葉が多く使われていますが、由来となる作品はイギリスだったり、アメリカだったりするため、ネイティブスピーカーも、必ずしも言葉の意味や由来を知っているわけではないようです。

最後に Cambridge dictionaryでは“homer”という言葉が選出されました。これは、野球の「ホームラン」 のことです。検索数が急増化した背景は、今年、英語圏で爆発的に流行したwordle (5文字のパズルゲーム)です。問題作成者のイギリス人が、アメリカ人を対象にした問題にしたため、野球に馴染みのないイギリス人多くが、解答の意味が分からず、新聞にその問題が掲載された日時にオンライン辞書での検索数が伸びたようです。

世界中の様々な国で第一言語として話される英語は、日々新しい言葉が生まれ、ネイティブスピーカーにとっても見慣れない言葉が多々あるといいます。英語学習者の私たちが分からない単語に出くわすのは尚更ですが、くじけず一歩一歩、一緒に勉強していきましょう!カメのスピードでもいつかはウサギに追いつくことを信じて。