「データ・ドリブン経営」や「データ・ドリブン・エコノミー」という言葉が使われるようになってきました。データ・ドリブンとはどのようなことなのか、推進にあたり何が必要なのかを2回に分けて解説します。
□事例:デジタル化とDXの混同
小売業を営むA社では、デジタル変革、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータといったものを活用した「データ・ドリブン・エコノミー」を社内に取り入れようとしています。データ・ドリブン・エコノミー(Data Driven Economy)とは、直訳すれば「データ駆動型経済」といい、売上データやマーケティングデータ、WEB解析データなど、データに基づいて判断・アクションする事です。リアルな世界から集めたデータが新たな価値を生み出し、あらゆる企業・産業・社会を変革していく一連の経済活動のことをいいます。A社社長は「わが社がデジタル変革に対応できず、現行の業態やビジネスモデルに固執すれば、将来は危うい」と考えていました。経営企画部長のBさんは、社長から「データ・ドリブン・エコノミーに向けた、社内の現状と課題を早急に取りまとめるように」という指示を受けました。DX無くしてはデータ・ドリブン・エコノミーを実現することなど到底できないため、社内でDXを推進するにあたり、社員意識の調査に取り掛かりました。
社内のDXの状況を調べたところ、「デジタル技術を活用して、既存業務を効率化したい」という認識の社員が圧倒的であることが判りました。Bさんが調べたDXの本来の趣旨は「DXによりビジネスモデルの大幅な変更、拡張または新規のビジネスモデルの開発を可能にするもの」というものでしたが、そのように考えている社員はごく少数のようです。また、A社のDXの推進役となっているIT部門にヒアリングすると、DXの意味は理解しているものの、「DXを推進する人材が不足している」との意見が出てきました。DX推進には社内の複数の部門をまたいで業務プロセスを見直す必要がありますが、「複数部門の状況を理解して最適な業務の在り方を再構築する人材がIT部門にはいない」とのことでした。さらにIT部門によると、小売りの店舗や営業部門がDX化に抵抗してるという話も入ってきました。既存業務のやり方は長年かけて最適化されてきたもので、DXにより業務プロセスが変更されるのは自分たちにとってまったく合理的ではない、というのが抵抗の理由のようです。推進役のIT部門に対して「今のシステムの使い勝手をもう少し良くしてくれれば、あとは余計なことをしなくていい」と言ってくる現場の社員も多いとのことでした。
Bさんは暗たんたる気持ちになりました。「これでは、データ・ドリブン・エコノミーどころかDXを実現することも難しいのではないか?」と感じています。
□解説:データ・ドリブン・エコノミーの流れ
「データ・ドリブン・エコノミー」とは、前述の通り、リアルな世界から集めたデータが新たな価値を生み出し、あらゆる企業・産業・社会を変革していく一連の経済活動を指します。
例えば、製造プロセス分野でのデータ・ドリブン・エコノミーの一連の流れは下図のように表わすことができます。
図の最上段の製造プロセスにおいて、リアルな世界からデータを収集します。そのとき、データを収集しやすいように物的資産をデジタル化するのがIoTです。収集したデータは、クラウドなどのデータベースに蓄積されてビッグデータになります。そのビッグデータを分析・解析し、現実世界へフィードバックするためのツールとなるのがAIです。
企業は、このフィードバックされた知見をもとに意思決定を行い、自社にとって最適な活動につなげていきます。そして、その結果が再びデータとして収集され、フィードバックされます。
このリアルな世界とサイバー空間を結びつける一連の流れを「CPS=Cyber-Physical System」といい、このサイクルを回すことで新たな価値を生み出していくことが可能になります。このようにデータ・ドリブン・エコノミーは、データが起点となってあらゆる領域で価値を生み出していくのが大きな特徴です。
東京大学大学院工学系研究科の森川博之教授はその著書である「データ・ドリブン・エコノミー」の中で「企業にとっては、IoTやAI、ビッグデータ解析など、データの管理や活用戦略の巧拙が企業競争力を大きく左右することになるのです。保有するデータ、これから手にするデータは種類・量とも加速度的に増える中で、どうやってそれらをビジネス価値に結びつけるかが問題」としています。
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