いま経営者が実践すべきことは?


今回のアスクル火災を教訓に、昨年6月に「報告書」を公表した。ここには火災の経緯を詳細に伝えるとともに、大規模倉庫における課題をまとめている。大規模倉庫を所有する企業はもちろん、あらゆる関係者に目を通してほしい。

また消防庁では、この報告書をもとに「大規模倉庫における消防活動支援対策ガイドライン」も策定した。ここでは建築基準法等に基づき煙が降下するまでの時間を算出し、その時間内に全員が避難できるかどうか、消防機関が実際に検証し、できない場合にはそれが可能になる方策を自ら考えるよう指導するなどの考え方を提示している。

大規模物流倉庫は、ひとたび初期消火段階を突破されたら消防隊もなすすべがないほど、極めて危険な建物だ。そこに数百人の人が働いており、人命危険は極めて高い。その危険性は、大規模地下街、超高層建築物、石油コンビナートにも匹敵する。地下街などの場合、施設の所有者や従業員は危険な施設であることを自覚しており、法令基準もそういう危険性に応じたものになっているため、潜在危険が高い割には致命的な事故につながりにくい。

ところが、大規模倉庫の場合、法令は従来タイプの倉庫を前提にしているためその危険性を反映したものになっていない。施設所有者も従業員も、これが火災になって、万一初期消火段階を突破されたら、人命危険が極めて高いということがわかっていない。経営者としては、まずは、初期消火と従業員の避難に重点を置いて、施設を整備し訓練をして、火災による人命リスクを引き下げる必要がある。

従業員の生命を守るだけなら、それだけでもよいかも知れないが、経営者としてはそれでは済まない。全焼した場合の物的損害、再建の費用、休業している間に得損ねた利益、顧客に与えた損害の補填、他社に奪われたシェア、傷ついたブランドなどによる経済的損失を最小限にすることも必要である。迷惑をかけた周辺住民への謝罪なども不可欠だろう。

経営的に考えるなら、火災により人命被害が出ないようにすることは当然のこと、経済的損失、火災対策にかかる費用、火災保険費用などを総合して、火災リスクを最小にする方策を考える必要がある。防火法令が想定していないような大型物流倉庫を造るなら、建築基準法と消防法に適合していれば火災対策は必要十分である、というわけにはいかない。経営の視点から火災リスクを最小にする方策を自ら考える必要がある。

倉庫全景。インターネット通販の普及により、仕分け・梱包・出荷まで行う大型倉庫形態が増加している


<参考URL>
■「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会報告書」
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000079.html

■「大規模倉庫における消防活動支援対策ガイドライン」
http://www.fdma.go.jp/concern/law/tuchi3003/pdf/300327_jimurenraku.pdf

<関連記事>
■「大規模倉庫シャッター作動へ基準見直し」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5481

■「大型倉庫監視強化、建築基準法改正へ」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5167

(了)