海外進出企業による現地公職員への賄賂を禁止する米国FCPA法。2007年以降、厳しい取り締まりが続いている(写真出典:Flickr)

有限責任監査法人トーマツは5月29日、「グローバルビジネスリスク記者勉強会」を開催。デロイト トーマツ 企業リスク研究所主席研究員の茂木寿氏が、日本企業が対応すべき海外リスクについて解説した。今回は、米国の「海外腐敗行為防止法」(FCPA)により日本企業が海外の現地公務員への賄賂を摘発され、巨額な制裁金を科される危険性などについて取り上げた。

「米国海外腐敗行為防止法(FCPA:US ForeignCorrupt Practices Act)」は1977年に制定された米国連邦法。もともと米国企業が海外の公職員への賄賂防止を目的にした法律だったが、他国企業との公平性が保たれないと米国企業からの反発を受け、2000年以降に同法の域外適用を開始。米国内に子会社を持つ、米国証券取引所に上場している、米国で資金調達している、米国人社員が関与している、などの適用条件に該当する企業であれば米国以外の企業も起訴することができ、実質的に全世界の大手企業・中堅企業の多くが対象となっている。

特に2007年以降、国際的な摘発件数が急増。2017年1月のトランプ政権移行後もその傾向を維持しており、制裁金徴収の総額は毎年10億ドル(約1100億円)にのぼる。日本企業でも摘発が増加傾向にあり、これまでに4社5件、100億〜200億円規模の制裁金が支払われた事例がある。直近では今年4月末、日本大手メーカーと航空機向け電子設備を扱う子会社が政府関係者への贈賄でFCPA法に提訴され、2億8000万ドル(約310億円)の制裁金の支払いで合意された。

英国でも「英国贈収賄禁止法(UKBA:UK Bribery Act)」が2011年7月から施行されている。同法は会社だけでなく個人間の賄賂までを対象としており、世界で最も厳しい賄賂防止法とされているが、現時点ではFCPAと比べて摘発件数は少なく、そのリスクは「未知数」(茂木氏)だという。

米国司法局(DOJ)と米国証券取引委員会(SEC)によるFCPA履行措置件数の推移(資料提供: トーマツ茂木氏)

すでに国内企業でもそのリスクが認識され、対策を取る企業もあるが、抜本的な解決には至っていない。企業のM&Aが活発になる中で、日本企業が海外の子会社を買収する際、子会社に贈賄の慣例がある危険性も少なくない。茂木氏は「日本企業は内部統制・内部監査の機能が弱いため、企業買収前の調査(デューディリジェンス)をしっかり行う必要がある」とした。

また制裁金が1社で数億ドル(数百億円)と巨額であることから、支払いによって当期経営収支が悪化することになれば、「国際カルテルと同様、株主代表訴訟により経営陣が責任を追及され、損害賠償を求められる危険性もある」(茂木氏)と注意を促す。

対策の第一歩として茂木氏はまず、各社でリスク評価を行い、贈賄行為の起こりやすい部門や地域を社内で洗い出し、リスクの高いところから重点的に対策を取ることをすすめる。

また具体的対策としては、グループ企業全体で贈賄防止の行動指針をつくり、社員向けの教育訓練を行うことを推奨している。とくに米国司法省・米国証券取引委員会でも2012年にガイドラインを公表しており、対策には有用な資料となっている。「ガイドラインに基づく行動指針作成や教育訓練を行うことで、贈賄を未然に防ぐことができ、万が一贈賄を摘発がされた場合の制裁金も大幅に減免される可能性がある」(茂木氏)とする。

■FCPAへの対応に関するガイドライン
https://www.justice.gov/sites/default/files/criminal-fraud/legacy/2015/01/16/guide.pdf(米国司法省・米国証券取引委員会が2012年11月に公表)

(了)

リスク対策.com:峰田 慎二