セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
セキュリティ意識を高めていこう
重大事件・事故の裏には見過ごせないことが
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
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先月は、警察、警備員、ボランティアだけにセキュリティ対策を任せておけばよいのではなく、私たちもセキュリティを担う当事者となる必要があるということをお伝えしました。今月は、ひとりひとりがセキュリティ意識を高めなければならない理由と、セキュリティ対策として私たちがすべきこと「Should」についてお話をします。
自分を守るためのセキュリティ意識
みなさんは「ハインリッヒの法則」をご存知ですか?これは、米国の損保会社の技師だったハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が労働災害の発生確率を調査し1929年に発表したものです。1つの大きな事故が起こる背景には、29の軽い事故が起きており、その背景には300ものヒヤリ・ハットの状況が存在するという法則です。
この法則に従うと、1件の重大事案は、29件の軽い事案を防げば発生せず、29件の事案は300件のヒヤリ・ハットを起こさなければ防ぐことができます。現実には、想定外の事態も発生するため、この法則通りに進まないかもしれません。しかし、重大事故を防ぐためには、そもそもの原因となりうる300件の「ヒヤリ・ハット」を防止することが必要であるとわかります。さらに「ヒヤリ・ハット」の下には、私たちが「おや、おかしいな」と感じるような「いつもと違う」または「ルールに反する」状態がたくさん存在している場合があります。この「おや、おかしいな」という意識、これは私たちにとって重要な意味を持ちます。この意識を持って行動できるかどうかが、自身の身を守ることにつながります。
ボストンマラソン爆弾テロでの「おや、おかしいな」状態
写真は、2013年のボストンマラソン爆弾テロで2発目の爆弾が爆発した場所です。
Starbucks Coffeeのガラスが割れていますが、爆弾が置かれていたのは、スターバックスの左Forumというお店の前にあった郵便ポスト脇です。マラソン大会当日は一般の観戦者がコースへ出られないように写真にあるような柵が設けられていました、ポストは道路側に設置されていたので、観戦者から見ると柵の向こう側にありました。
ボストンマラソンでは、レースの安全上、柵の向こう側(コース側)に観戦者が出ることと荷物を置くことを禁止しています。多くの人々は、そのルールを知っており、きちんと守っていました。しかし、柵の向こう側に誰かがリュックサックを置きました。大勢の観戦者がその場にいたにも関わらず、その行為を誰もとがめず、セキュリティスタッフにも報告せずいました。その場にいた誰もが、その人物がテロリストであり、荷物の中に手製の圧力鍋爆弾が入っているとは思わなかったからです。
FBI(米連邦捜査局)は情報提供を募るサイトを常設しており、今回の爆弾テロ後も、観戦者に写真の提供を呼びかけました。マラソンのゴール付近のいた人々から多くの画像が寄せられ、Forumの前にある郵便ポスト脇にはっきりとリュックサックが映っている写真が7人から送られてきました。彼らは道路の反対側(上記写真の手前側)にいたため、リュックサックが置かれている状況を写真に収めることができ、さらにそれが爆発した瞬間をとらえた写真もありました。誰もが応援に夢中であり、柵の向こうに置かれた荷物を見逃した結果、それが2度目の爆発となりました。観戦者のうち、たった1人でも「おや、おかしいな。荷物が置いてある。ルールでは禁止されているはず」とセキュリティスタッフへ報告していたら、事態は変わっていたかもしれません。
私たちがすべき「Should」
たかだかひとつの荷物のことで目くじらを立てるのも…と私たちは思いがちです。しかし、たったひとつの荷物を見逃したことが重大な事案を引き起こすということをボストンは教えてくれています。
2019年はラグビーW杯が、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが日本で開催されます。警察官や警備員のように日々セキュリティと対峙しているわけではない一般人の私たちが、そのイベント期間中だけセキュリティ意識を高めて行動するということは不可能です。日ごろから「おや、おかしいな」と感じる目を養うように努めること、この意識を持つだけで今までは気づかなかったものに目を向けられるようになります。そして、その「おかしいな」の部分をできるだけ詳細に記憶または記録し、警察官や警備員、駅なら駅スタッフへ報告しましょう。
何でもなかったからといって、自分の「おかしいな」という直感が間違っていたわけではありません。万一の事態を起こさないように意識すること、それが自分の身を守ることにつながります。私たちひとりひとりもセキュリティの当事者です。ぜひ明日からその意識を持っていただきたいと思います。
(了)
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